シネマ・ジャンプストリート

劇場公開映画を中心にレビュー 映画の良さと個人的感想を。

☆9 『tick, tick...BOOM! :チック、チック...ブーン!』

『tick, tick...BOOM! :チック、チック...ブーン!』



~あらすじ~
1990年、アメリカ・ニューヨーク。30歳を目前にしたジョナサン(アンドリュー・ガーフィールド)はダイナーでウェイターとして働きながら、ミュージカル作曲家になることを夢見ていた。ロックミュージカルの楽曲に何年も取り組んできたが、恋人のスーザン(アレクサンドラ・シップ)は新たな夢のためにニューヨークを離れることを願い、ほかの仲間たちも夢を諦めようとしていた。(シネマトゥデイ引用)






9/10★★★★★☆☆☆☆

以下 レビュー(ネタバレなしです!!)

【作品背景】

今尚、世界中で上映され、映画化もされた名作ミュージカル『RENT/レント』。

その生みの親で、『RENT』公開前夜に35歳で悲劇の死をとげた天才ミュージカル作家ジョナサン・ラーソンが、自伝ミュージカルとして30歳で公開したミュージカル『tick, tick...BOOM! 』の映画化作品になります。

本作で監督を手掛けるのが、ジョナサン・ラーソンが現代で生きていたら...を地で行くような、『イン・ザ・ハイツ 』『ハミルトン』の天才ミュージカル作家のリン=マニュエル・ミランダ。

天才ミュージカル作家の長編映画監督デビューという事に加えて、彼自身ジョナサン・ラーソンがきっかけでミュージカル作家を目指し、大きく影響を受けていたり、『tick, tick...BOOM! 』の再演でジョナサン・ラーソンを演じたりするなど、かなり繋がりの強い人物で、この背景にも注目です。

ジョナサン・ラーソンを演じるのが、『アメージング・スパイダーマン』や『ハクソー・リッジ』のアンドリュー・ガーフィールド。
舞台出身でトニー賞を受賞するなど評価されてきた彼が、ミュージカル映画でどのようにジョナサン・ラーソンを体現するのか楽しみです。



【感想(ネタバレなし)】


ミュージカル映画としての楽しさを堪能しつつ、メタ的多層的に複雑に感情を揺さぶられる、超大傑作でした!!


本作はミュージカル『tick, tick...BOOM! 』を映画化するにあたり、ユニークなアプローチが取られています。

そのミュージカル自体は、ジョナサン・ラーソンが30歳目前に迫った中で、夢への挑戦のタイムリミットを感じながら、「恋人」や「友人」との距離の変化、それによるジョナサン自身の葛藤を描いていきます。

本作はそう言った30歳目前のミュージカルの内容をベースに膨らませて映像化しつつ、その元になったミュージカルを演じる30歳以後のジョナサン自身まで、切り替えながら映し出していきます。

そのため、ミュージカルの中身であり「時間」に焦る30歳目前の姿と、自身の過去を俯瞰する形でミュージカルを演じる30歳後の姿を同時に見ることになり、それが斬新で面白いんですし、その二つが合流する形になるラストはめちゃくちゃエモーショナルに上がりました。


そして、そこに更に効いてくるのが、「RENT」の成功を見守る事なく、「35歳で彼は亡くなる」という、観る側が知る現実。

劇中では、「時間」に対する捉え方の変化を描いているのに対して、私たちが知っているその現実はそれを否定するかのように働きかけていて、それから矛盾した「時間」に対する感情が沸いてくる為、めちゃくちゃ複雑で掻き乱されました。

人生は長いし短い。それがストンと入って為、「本当に豊かな映画を見たな」って、気持ちにさせられるんです。


また、元のミュージカルの中身の部分も、やはり素晴らしいなと思いました。

「夢」と「大切な人々」の扱い方が凄く良い。

必ずしも「大切な人々」と同じ道を歩める訳ではないが、ジョナサンが自分の進むべき道へ覚悟を決め歩み出す時は、必ず「大切な人々」と向き合った時だし、「大切な人々」はきっかけとして記憶に残り続ける。

まるで『ラ・ラ・ランド』のようなロマンチックさを併せ持つ映画だなと思いました。


また、楽曲も最高ですよね。

本作は映画の多層的な構造上、ミュージカル『tick, tick...BOOM! 』の楽曲、ジョナサンがその中で取り組む劇中劇の楽曲、そしてオリジナル楽曲が混ざりながら推進していくのですが、どれもジョナサン・ラーソンのポップでロックでキャッチーな楽曲センスわ感じられて最高でした。

多層的な構造と絡めながら、楽曲をどう見せて、どう当てはめるかは、監督リン=マニュエル・ミランダさんのセンスの良さが、全面に出ていて最高でした。


主演のアンドリュー・ガーフィールドはオスカー取ってもおかしくない公演でしたし、彼の仲間達もジョナサン・ラーソンの特徴の一つである多様性を感じさせてくれて、凄い良かったです。


年間ベストに間違いなく入れたいですし、超多層的に刹那に生きた彼を描く、最高の映画だと思います。

めちゃくちゃオススメです!!


  1. 2021/11/26(金) 12:11:39|
  2. 2021年公開映画
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☆9『エターナルズ』MCUで最も好きな作品が出来ました!

『エターナルズ』



~あらすじ~
ヒーローチームが不在となった地球で、人類の行動が新たな脅威を呼び起こしてしまう。そんな中、7,000年にもわたって宇宙的規模の脅威から人類を見守ってきたエターナルズと呼ばれる10人の守護者たちが、数千年の時を経て次々と姿を現す。散り散りになっていた彼らは、人類滅亡まで7日しかないと知って再結集する。




9/10★★★★★☆☆☆☆

以下 レビュー(ネタバレなしです!!)

【作品背景】

『アベンジャーズ』シリーズなどマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の26作目になる本作。

7,000年にもわたってある脅威から人類を守って来た、「エターナルズ」つまりは永遠の者達を描く映画で、これまでのMCUシリーズの中で最も壮大で、今後の展開にも大きく関わってくる作品になります。

監督を務めるのは、『ノマドランド』で本年度のアカデミー賞を受賞した、クロエ・ジャオ。ノマドランドの公開前に本作の監督が決まっていたとはいえ、オスカーを受賞した直後の旬の監督がヒーロー映画を撮るのは異例中の異例だし、MCUの先見の明には脱帽です。

MCUがここまで成功している理由として、シリーズ全体の大きな流れを作りながらも、其々の単体映画の特徴に適した監督を選定しする事で、映画の特徴を見事に立たせてきた所があるので、クロエ・ジャオがMCUの中でどんなアイデンティティを見せて、それがどうシリーズと融合するのか、めちゃくちゃ楽しみですね。

また、クロエ・ジャオ自身がキャスティングに入ってる事もあって、かなり渋い面々を揃えています。

エターナルズメンバーの中でも、かなり主演に近いポジションの「セルシ」には『クレイジー・リッチ!』などのジェンマ・チャン、「イカロス」にはその彼女とプライベートでも親交のあるリチャード・マッデンを大抜擢。
その他、アンジェリーナ・ジョリーやバリー・コーガン、マ・ドンソクなど非常に個性的で多様なメンバーが脇を固めます。



【感想(ネタバレなし)】


結論から言うと、完成度と言う意味ではより優れた作品が他にあると思いますが、MCUの中で最大級に大好きな作品でした。

本作は、これまでのMCU世界観を内包しながらも、より壮大な「時間」と「空間」の中で物語を紡いく。

その為、あまりに壮大な世界を描き過ぎると、これまで描いて来たシリーズがちっぽけで意味のないものに見えかねないという懸念が観る前にあったのですが、全くそんな事はなく、これからのシリーズがめちゃくちゃ楽しみになる作品になってました。

特に上手いな、素晴らしいなと思ったのが、10人登場するエターナルズのキャラクターの描き方です。

起きている事件とそこに対する人類ベースの視点ではなく、彼ら「エターナルズ」の其々のパーソナリティに焦点を当ててて、寄り添いつつ見守るような視点が、素晴らしかったです。

我々人類にとっては高次の存在であり、彼らの人間を見守る視点自体は僕たちが持ち得ない視点なんですが、人間を俯瞰視した時に生じる多種多様なリアクションが10人のキャラクターを語っていて、そこでの彼らの多種多様な考え方はどれも神々視点での人間味を感じ腑に落ちるし、それを真っ向から否定せず見守るような視点が本当心地良かったですね。

観終えた後に本当に10人もいた?ってなるくらい、非人間の浮世離れしたキャラクターを描いてるのに、キャラクター全員に血が流れてちゃんと個性が立ってて、冗談抜きで全キャラクターが好きになりました。

そんな多様な個性と、連動するように練り上げらたアクションも素晴らしかったですよね。

日本のアニメの影響を確実に受けたであろうアクションも多々あって、クロエ・ジャオ監督のオタク心に驚きつつも、それぞれの戦い方や能力が個性を引き立てて、キャラクターの魅力を引き上げていました。

前作の『シャン・チー』でも感じたけど、VFX全盛とは言え、「アクションのパターンはもう限界でしょ」なんて思ってたら、余裕でそんな事なくて、今回もフレッシュで最高でした。
この点だけでも、MCUは突き抜けてるし、追う価値はあると再確認できました。


そんなエターナルズの面々を描く中で、彼らの視点から観た「人類」の姿と、そこに感じる多様な印象も同時に伝わってきます。

「愚か」で「美しい」、相反するような要素を併せ持つ多層多様で豊かな人間の姿がエターナルズの視点で見えてきて、彼ら同様に心が揺さぶられるのも素晴らしかったです。

本作、原爆投下の残酷な様子が「ある意味」を持って描かれるのですが、その「ある意味」をハリウッドで初めてちゃんと描いたのではないかな?と思い、めちゃくちゃ感心しました。


もう一つ、懸念としてあった「なぜエターナルズが、これまでの人類の危機に干渉してこならかった?」に対しても、納得の理由が語られてるのかなと思います。
それでいてその理由となる「人類とのギャップ」が、本作のエターナルズの成長や変化に活かされていくってのも、しっかり出来てるなと思いました。


クロエ・ジャオ監督の特徴としても、被写体の生き方を見守る距離感に作家性を感じる他、自然光を活かした雄大な映像もめちゃくちゃ効いてました。

一方で語り口はしっかり劇映画でモキュメンタリーっぽさは全くないので、劇映画として程よいチューニングで、クロエ・ジャオの入門編としても非常に良いのかなと思います。


一点だけ上げるなら、劇映画としての物語の終わらせ方には、本来その必要性がない映画を撮ってる監督という事もあり、強引さが出ちゃってるなってのだけ、惜しいなって感じた所です。

ただ、めちゃくちゃ大好きな作品で、何度も見返したくなるし、今後のMCUがさらに楽しみになりました。

オススメです!!!
  1. 2021/11/17(水) 13:04:52|
  2. 2021年公開映画
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☆9 『ボクたちはみんな大人になれなかった』

『ボクたちはみんな大人になれなかった』



~あらすじ~
1995年。佐藤(森山未來)は、文通相手のかおりと原宿のカフェで会う。「君は大丈夫だよ。おもしろいもん」と言われ、普通じゃない自分を目指していた佐藤は、その言葉を支えにテレビの美術制作会社で懸命に働きながら小説家を目指す。その後かおりが去り、小説家にもなれなかった彼は、テレビ業界の片隅で働き続けていた。バーテンダーのスー(SUMIRE)との出会い、恋人の恵(大島優子)との別れなどを経て、気が付けば佐藤は46歳になっていた。(シネマトゥデイ引用)





9/10★★★★★☆☆☆☆

以下 レビュー(ネタバレなしです!!)

【作品背景】

11月5日に劇場公開、及びNetflixにて全世界同時配信された本作。
元々はウェブメディアの連載によって話題になり、2017年に書籍化されベストセラーになった、作家名「燃え殻」による同名小説の映画化になります。

監督を務めるのは、サカナクションやAKBグループなどのミュージックビデオを手がけた映像作家の森義仁さん、ドラマではテレビ東京のドラマ『恋のツキ』を撮った歴がありますが、長編映画としては本作が監督デビュー作になります。

キャストが、6月21日から1週間毎に公式SNSで1人ずつ順次発表され話題になりました。
『アンダードッグ』や『モテキ』などの森山未來が主演を務め、伊藤沙莉、東出昌大、SUMIREのほか、大島優子、萩原聖人らが出演しています。



【感想(ネタバレなし)】


自分の中に閉じ込めていた感情が、攪拌される感覚で、めちゃくちゃ面白かったです。


本作、どういった映画がなんですが、
気がつけば未婚のまま46歳になっていた森山未來演じる佐藤が、「何故自分はこうなったのか...」とばかりに、20歳を超えた所からの25年間を、【逆再生】で振り返りながら描いていきます。

2020年の今から始まり、中年に差し掛かった2015年、大震災の直後の2011年、若者であった2000年代、価値観の創世記となった90年代後半...といった形で「時代の変化」と「彼自身の変化」を巻き戻しながら捉えていく作りになっています。

そんな構成の為、凄く結びつきやすいのが、同じく今年度公開された菅田将暉と有村架純W主演の『花束みたいな恋をした』。

確かに非常に共通項が多い作品になのかは、間違いないです。

両者とも「今」から「過去」を見つめる描き方をする事で、観る人にも侵食して、その結果「自分の物語」を思い出させノスタルジーを感じさせる映画になっています。

また両者とも年代は違えど、「時代の変化」を映像に閉じ込めた作品になっていて、『花束~』は2015年からのカルチャーを中心に、本作は90年代後半からのより生活に紐付いた要素を中心に、劇中の空間を作り上げる事で、「自分の物語」と「時代性」の二つのノスタルジーを同時に想起させる映画になっています。


そんな中で、決定的に違うのが二つあります。


一つが「過去を振り返る語り口」にあります。

『花束~』は一度出会いという物語の始まりに戻ったら、そこからは一方通行の再生のみで、現在まで続いていく作りになっています。

一方で本作は、先述したように、時間の近い側から少しずつ昔に戻っていく【逆再生】で語られていきます。

それによって、年代による彼の変化を、その後で描かれる更に過去の要素で回収され紐解かれていくという描かれ方をしていて、ミステリー的で面白い。

肝心なのは表面的な面白さだけでなく、観ている側の感情を動かす意味でも、めちゃくちゃ機能してるんです。

少しずつ過去に戻っていくという事は、人生が積み木だとすれば、一番上から外していく事。
そんな過去の「重大な出来事」を上から一つずつ外していく事、そしてそこへの繋がりが下の積み木から見つかる事...それが続いていく事によって、結果として「重大な出来事」の連続性のある積み重ねが今を作り上げている事が強調され、めちゃくちゃズシっとくる。


そして、もう一つの『花束~』との違いが、過去を見つめる眼差しの違いなんですよね。

本作は、「普通になりたくない」ってのがキーワードとして出てくるんですが、そこからくる過去の「拗らせ」、そして「苦さ」と「後悔」の視点があって、それが居た堪れなくて、めちゃくちゃ好みてました。

そこで一つ凄いなと思ったのが、ただ単に主人公の「行動」や「人生」に決して共感してる訳ではないんですよね。

映画で描かれるテーマ性に対して、「ある人の言葉に影響を与えられて過剰に拗らせた過去と、そこから繋がった今」とか、「そこにある恥ずかしさや愛おしさ」含め、自分に置き換えて感情レベルで重ねながら見ちゃう。

それがめちゃくちゃ凄くて、言い過ぎかもしれないですけど、魂レベルで震えちゃいました、


忘れられない映画の一つになりました。

超オススメです!!


  1. 2021/11/10(水) 13:19:54|
  2. 2021年公開映画
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☆9『最後の決闘裁判』名匠の新たな傑作

『最後の決闘裁判』



~あらすじ~
中世のフランスで、騎士カルージュ(マット・デイモン)の妻マルグリット(ジョディ・カマー)が、夫の旧友であるル・グリ(アダム・ドライヴァー)から暴力を受けたと訴える。事件の目撃者がいない中、無実を主張したル・グリはカルージュと決闘によって決着をつける「決闘裁判」を行うことに。勝者は全てを手にするが、敗者は決闘で助かったとしても死罪となり、マルグリットはもし夫が負ければ自らも偽証の罪で火あぶりになる。(シネマトゥデイ引用)





9/10★★★★★☆☆☆☆

以下 レビュー(ネタバレなしです!!)

【作品背景】

600年以上前にフランスで行われた、決闘によって決着をつける「決闘裁判」の史実を基に描かれた本作。

「決闘裁判」とは、「神は正しい者に味方する」「決闘の結果は神の審判」というキリスト教の信仰のもと、証人や証拠が不足している告訴事件を解決するために行われる、当事者間で真実と生死をかけた決闘で、今の価値観では到底理解出来ない価値観の元で行われていました。

13世紀には禁じられるのですが、本作は禁じられる少し前に行われた最後の決闘裁判を題材にしています。


実際にはエリック・ジェイガーのノンフィクション小説『決闘裁判 世界を変えた法廷スキャンダル』を原作にしつつ、

監督を務めるのは、『エイリアン』や『ブレードランナー』、『グラディエーター』、『オデッセイ』などの名匠リドリー・スコット。

SF映画の今に続く在り方を作った1人であり、細部まで計算し尽くされた異世界を完璧に築く映像センスと、視点の置き方で物語の見え方をコントロールするのが巧みな監督かなと思っています。


この決闘裁判の中心になるメインキャストとして、マット・デイモン、アダム・ドライヴァー、ジョディ・カマーらが出演する他、ベン・アフレックが重要な役で共演するなど、かなり豪華なキャストにぬっています。

そして、アカデミー脚本賞を受賞した『グッド・ウィル・ハンティング』以来23年ぶりに、幼なじみのマット・デイモンとベン・アフレックが共同脚本を務める点も大注目です。



【感想(ネタバレなし)】


めちゃくちゃ面白い、流石リドリー・スコットという手際の良さが前面に出た映画になっていました。

本作、構成としては三部構成で描かれます。

マッド・デイモン演じる騎士のカルージュと、彼の親友であったアダム・ドライバー演じるル・グリ、そしてカルージョの妻であるジョディ・カマー演じるマルグリット、3人の視点から観た「ある事件を巡るそれぞれの事実」を章を分けて描かれます。

同じ時間に起きた出来事を、2時間30分かけて3回続けて見せられるという作りになっている為、それは流石に退屈なのでは?と思ってしまいそうですが、全くもってそんな事はありません。

確かに大枠で観ると、起こっている出来事は同じ、文字に起こすと同じ事を三回書くような内容になるんですが、細部の出来事や映像の捉え方、言い回しは全く異なります。

つまり、同じ出来事の中でも各キャラクターから観た「真実」の違いが強調されるように、超絶手際良く撮られていて、そこにある僅かな違いが全体の物語の印象や観る側の感情を大きく振り回す為、スリリングな映画になっているんですよね。


具体的には大きく2点の面白さがあって、

一つは、各キャラクターに感じる印象や見え方が、章が変わる事にどんどん変わっていく。そこには共通してずっと胸が苦しくて辛いんですけど、その辛さのベクトルの変化や、共感と軽蔑を行き来する各キャラクターへの感情の振れ幅が、めちゃくちゃ面白い。

もう一つが、キャラクター自身がこの争いに感じてる主題や世界の見え方が違う為、三章それぞれで観る側も異なったテーマの映画に受け取れるってのがめちゃくちゃ面白かったです。
特に三章目の、ある人物から観た世界ってのが、一章と二章では見えてなかったこの世界の残酷さが前に出てて、本当辛かったですね。


そしてクライマックス決闘。

主には最後の視点を持つ人物に最も共感しつう、各人物に共感と軽蔑の両方の視点を持った上で見ている為、血液が沸騰した。

よくよく考えると、本作で扱う「主観の危うさや不完全さ」ってのは、ちょくちょくリドリー・スコットが扱うテーマなのかなと思っていて、例えば全てを理解できない事の怖さを描いた『悪の法則』なんかを連想しました。


また、アクション演出も上手くて、流石リドリー・スコットな重厚感と肉感のあるアクションが、この物語の重さや不条理さを強調していて、めちゃくちゃ良かったですね。


そしてもう一つの魅力が、「決闘裁判の在り方」や「男女の在り方」含めた、価値観の現代とのギャップです。

その在り方に、第一章や第二章で誰も疑問を持たないし、観る側も「そういう価値観の時代ね」なんて観ていたところ、第三幕でのカウンターパンチだったので、衝撃を受けました。

この時代の価値観を楽しみつつ、現代にも通ずる「そういう物だよね」に埋もれた問題提起までする。

また凄い傑作をリドリー・スコットが作り出してしまいました。

  1. 2021/10/27(水) 00:13:57|
  2. 2021年公開映画
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☆6.5『DUNE/デューン 砂の惑星』

『DUNE/デューン 砂の惑星』


~あらすじ~
人類が地球以外の惑星に移り住み宇宙帝国を築いた未来。皇帝の命により、抗老化作用のある秘薬「メランジ」が生産される砂の惑星デューンを統治することになったレト・アトレイデス公爵(オスカー・アイザック)は、妻ジェシカ(レベッカ・ファーガソン)、息子ポール(ティモシー・シャラメ)と共にデューンに乗り込む。しかし、メランジの採掘権を持つ宿敵ハルコンネン家と皇帝がたくらむ陰謀により、アトレイデス公爵は殺害されてしまう。逃げ延びたポールは原住民フレメンの中に身を隠し、やがて帝国に対して革命を決意する。(シネマトゥデイ引用)




7/10★★★★★☆☆

以下 レビュー(ネタバレなしです!!)

【作品背景】

やってきました『DUNE』。

原作は1965年に発表されたフランク・ハーバートによるSF小説で、壮大な物語と世界観から一世風靡したシリーズです。

この小説の映画化が、なぜ話題になるのかというとその背景にあります。

当時、映像化不可能と言われていた世界観を、1970年代に『エル・トポ』などでカルト的な人気を誇るアレハンドロ・ホドロフスキー監督による映画化の企画が進行します。

彼が練り上げた壮大な構造と、人としての魅力に、新進気鋭のSF画家、アーティスト、特殊効果技師などのクリエーターが集まります。

彼らによって更に練られたプロットや絵コンテが一冊の本に纏められた、撮影に向けて出資してくれるスタジオを説得にまわったのですが、多大な予算と10時間にもわたる上映時間、そしてホドロフスキー監督の型破りな手腕にGOを出すスタジオは現れず頓挫しました。

しかしこの映画の構想は、二つの観点で、後世に大きな大きな影響を与えました。

一つは、DUNEの為に集まって解散したクリエイターが、この作品を通してインスパイアを受けて練り上げた構想を、その後の作品で遺憾無く発揮する事で映画のビジュアルを大きく変えた為です。

その代表例がリドリー・スコットの『エイリアン』で、DUNEの解散で行き場を見失ったクリエイターの多くがこの作品で再集合し、あのビジュアルと世界観を作り上げました。

そしてもう一つが、プロットや絵コンテが一冊の本の存在です。

この本はあらゆるスタジオに残された為、例えばその数年後に映像・デザイン革命を起こした『スターウォーズ』は、この本がら多くのシーンの着想を得たと言われています。

それらの作品や絵コンテ本の存在は、連鎖しながら影響を与え続けている為、ホドロフスキーが練り上げたDUNEは、未完成ながら大きな大きな影響を残したとして、伝説的扱いを受けている訳です。

そんな本作、実はその後に1度、映画化にこぎつけた作品があります。

それが、デヴィッド・リンチによる1984年の『砂の惑星』です。

しかし、この作品は大きなスケールの作品を一本にまとめた為、原作の良さを活かせているとは言えず、一般的には失敗作と言われてしまっていました。

そして2021年、ホドロフスキーの構想から40-50年経った今、『メッセージ』や『ブレードランナー2049』、『ボーダーライン』のドゥニ・ヴィルヌーブ監督によって映画化されるのが本作です。

壮大で抽象的な映像表現と、その抽象性を活かしたストーリーテリングが巧みなドゥニ・ヴィルヌーブ監督が、本作をどのように料理しているのか、非常に楽しみでした。

また、本作は2部構成の前編であり、本作で物語が完結する訳ではありません。


【レビュー、感想(ネタバレなし!)】

一つ前にレビューした『007』同様か、それ以上に賛否が割れていますね。

本作の抱えてるミッションって、非常にハードルが高いと思っています。

というのも、公開するはずであったホドロフスキーよDUNEの構想が、プロットやデザインという様々な観点で、今の映画の在り方に大きな影響を与えてしまった為、ブーメランで帰ってきた既視感を超える何かを提供しないと、「ありきたり」という感想になってしまう為です。

また、本作の壮大な物語を映画に落とし込むにあたって、映画の2時間30分という尺の中で、その面白さを表現できるのか?という観点もあります。

そのような観点でどうだったか...

まず、ドゥニ・ヴィルヌーブ的な色彩感を落とした壮大な映像描写とハンス・ジマーによる音響、それらによって演出される世界観は、素晴らしかったです。

そして、そこに主人公の暗示的で抽象的な心象描写が重なる事で、全貌が見えないスケール感のある問題と、パーソナルな問題が並走していきます。

これが作品の良い意味で掴みきれない世界観を作っていて、ドゥニ・ヴィルヌーブの作品だなと思いました。

『メッセージ』に関しても同じ構成で出来ていて、最終的にその抽象的な「マクロ視点」と「ミクロ視点」が化学反応を起こして、全体像をクリアにする鳥肌物の傑作でした。

そういうた意味で、本作は2部構成のうちの序章に過ぎず、掴みきれない世界観の提示という所だけで物語が終始しています。

その世界観に関して、前述したように確かに素晴らしいのですが、ブーメランで帰ってきた既視感を超えるインパクトには至ってないし、2時間半のあいだずっとその要素の強調だけが前に出てくる為、個人的にはクドくて、とっつきにくさだけが過度に残る作品に観じてしまいました。

二部構成なので、二作目を見るとまた評価が変わる可能性はありますが、直ぐに公開されるどころか、まだ製作が決まっている訳でもないそうです。

そういった意味でも、一作だけでも楽しめる映画になっていて欲しかったのですが、「ブーメラン的な既視感」と「壮大な物語に対する映画の尺」という観点から、そのハードルをクリアする事は失敗に終わったと言って良いのかなと思います。

とはいえ、絶賛してる人は絶賛してますし、世界観の提示が素晴らしいって所に否定は出来ないので、是非見て頂いて、色んな意見を聞かせて頂きたいです。

  1. 2021/10/21(木) 16:47:17|
  2. 2021年公開映画
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