シネマ・ジャンプストリート

劇場公開映画を中心にレビュー 映画の良さと個人的感想を。

95『ちはやふる 結び』4回観ても響く

瞬間を永遠に留める力が必ずある。

青春映画の金字塔完結!
『ちはやふる 結び』



~あらすじ~
瑞沢高校競技かるた部員の綾瀬千早(広瀬すず)と若宮詩暢(松岡茉優)が、全国大会で激闘を繰り広げてから2年。真島太一(野村周平)、綿谷新(新田真剣佑)らと共に名人・クイーン戦に挑む千早だったが、詩暢と戦えない自分の実力不足を痛感する。そんな中、千早たちの師匠・原田秀雄(國村隼)が史上最強の名人とされる周防久志(賀来賢人)に敗れてしまい、新が彼に挑戦状をたたきつける。その後3年生になった千早は、高校最後の全国大会に向けて動くが……。
(シネマトゥデイ引用)






☆☆☆☆☆☆☆☆☆(95/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)
漫画雑誌BE・LOVEで人気連載中の同名漫画の実写映画化で大成功した2016年の『ちはやふる 上の句』『ちはやふる 下の句』の二部作。
当初は二部作の予定も、各方面からの絶賛&予想以上の成功により、公開と同時に企画発表されたのが、シリーズ完結篇となる今作の『ちはやふる 結び』。
監督は全2部作と同様に、『タイヨウのうた』や『カノジョは嘘を愛しすぎた』の小泉徳宏さん。

今作も千早を演じる主演の広瀬すずはじめ、野村周平や新田真剣佑、松岡茉優、上白石萌音、矢本悠馬、森永悠希など前二作で素晴らしいハーモニーを奏でた役者陣が勢ぞろい!
加えて瑞沢高校カルタ部に入部した新入社員を佐野勇斗と優希美青が、圧倒的な強さを誇る名人を賀来賢人が、千早の新たなライバルとなる新星を清原果耶が演じるなど、更に多くのキャラクターを巻き込んで、『ちはやふる』が結ばれていきます。



競技かるたシーンの躍動感など、上げればキリがない「ちはやふる」シリーズの素晴らしさですが、一番のらしさといえば、あらゆる要素が螺旋常に呼応し合う所でしょうか。
例えばあるシーンと別のシーンが時空を超えて呼応して、物語のテンションを浮遊させるそんな演出が効果的に散りばめられています。
単発で見るとアニメ的に誇張されたエモさや、現実的には...というシーンが多いのですが、シーン通しの呼応のさせ方が抜群で、欠点としてどころか気持ちよすぎる長所として機能しています。
(下の句はくどく感じる所が散見してましたが...)
今作も、旧作のあのシーンから!?という驚きのシーンとシーンの結びなど、感情を爆上げさせられます。

また、キャラクターが物語を作り、物語がキャラクターを活かすという循環が常にキャラクターを魅力的にみせていきます。
それはシリーズを進めるごとに旨味に変わってく訳で、今作も前作のレガシーを最大限活用。
特にコメディ要素が過去二作以上に抜群で、独特の賑やかさを生んでいきます。
そして活かすだけでは決して終わらないのが「ちはやふる」。
新入部員の花野や筑波、名人の周防といった新たなキャラクター達もやはり、ユニークな言動で盛り上げつつ物語がそれを回収する事で、彼らもまた愛おしいキャラクターへと変わっていきます。
ストーリ的にはそれほど大きくない詩暢ちゃんや伊織も、ギャグ的なシーンとそれを活かして変化を映しだす視点がちゃんと用意されています。
大所帯となったキャラクター全員がちゃんと生きてる、誰を切り取ってもしっかりと輝いた物語がある、日本版アベンジャーズのような映画で、小泉監督は目配せの天才だと感じました。


そんな各キャラを生かす言動が、しっかりと伏線として機能して物語の展開としても重なり合いながら、大きなテーマを浮かび上がらせていきます。
高校一年の1年間を描いた過去二作に対し、今作の千早達は三年生。
部活動の集大成がある一方で、今後の人生の選択が必要になる、終わりへ向かうタイミングでもあります。
特にこれまで微かに見えていた競技かるたへの各々の動機の違いが、「太一の苦悩」として表面化し、過去二作の輝きに対する「もう無理なのか...」という消滅の予感が漂います。

でも、だからこそ!というのがこの映画の最大の醍醐味。
「時を超えて場面を受け継ぐ」百人一首。
その競技で語られるのも、そんな「一瞬の景色」が、現代に「太一と新の景色」として継承された内容。
そんな物語と呼応するかのように、一瞬を永遠に留める力を大肯定する結びへと繋がって行きます。

あの瞬間のあの手触りは間違いなく本物で、たとえ結果が伴わなくても、それは自らの中に永遠と残り続ける。
そして、さもすればその瞬間が誰かに伝播し、継承され、永遠に繋がっていくしれない。
結果よりも失ってはいけない瞬間の尊さが、気づきを得る太一や部員の成長とも直結し、それらをこれでもかとエモーショナルなアクション演出で魅せる展開に、涙が止まりませんでした。


もちろん、演出面でもさらに凄みを増しています。
斬新で迫力がある競技かるたシーンはもちろん、音楽と映像のシーンと連動した緩急が抜群で、螺旋形状にエモーションを巻き上げます。
特に、音の使い方!
無音のシーンを大勢で見守る感覚。
たまりません。
そういう意味でもこの映画は、劇場で是非見ていただきたい!

それはちょっと...やりすぎ...という演出が2ヶ所ほどあるにはあるんですが、そんなもんの5億倍最高なシーンばかり。
つまり、大好き!!

百人一首=瞬間を永遠に閉じ込めた題材を用いた、
青春=瞬間を永遠に閉じ込める可能性を描いた内容が、
映画=瞬間を永遠に残すメディアで語られ、
自分にとっても永遠に残る瞬間の体験に。
超超超オススメです!!!





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  1. 2018/03/29(木) 23:04:21|
  2. 2018年公開映画
  3. | トラックバック:12
  4. | コメント:0

80『15時17分、パリ行き』御爺!御爺!!

御爺クリント・イーストウッド最新作!

本人出演!?
『15時17分、パリ行き』



~あらすじ~
2015年8月21日、554人の客が乗るアムステルダム発パリ行きの高速鉄道タリスに、武装したイスラム過激派の男が乗り込み無差別テロを企てる。乗客たちが恐怖に凍り付く中、旅行中で偶然乗り合わせていたアメリカ空軍兵スペンサー・ストーンとオレゴン州兵アレク・スカラトス、二人の友人の大学生アンソニー・サドラーが犯人に立ち向かう。(シネマトゥデイ引用)





☆☆☆☆☆☆☆☆(80/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)
『グラン・トリノ』や『ハドソン川の奇跡』など言わずと知れた映画監督であり俳優...つまりは最高の映画人、御歳87歳クリント・イーストウッド監督の最新作。
この歳になっても一年に一度のペースで新作を出し続けてくれ、しかも新たな挑戦をやめない監督に頭が下がります...

2015年8月にフランスで起きた無差別テロ事件。
新幹線という無防備な密閉空間に関わらず、アメリカ人3人とフランス人1人の抵抗により、1人の死者も出さず沈静化させた実在の事件を、発生からまだ3年もたたない中での映画化。
思い切った事をするなというのはまだ早くて、なんとこの映画の中心となる上記アメリカ人3名を事件当事者が演じるという、とんでもない試みをしてきました。



上映時間94分。
これだけを切り取って見ると、非常にコンパクトに見えるが、もう少し掘り下げるとどうだろうか。
この映画の事件は、ほんの数分の出来事に過ぎません。
これは、イーストウッド監督の前作『ハドソン川の奇跡』と共通していて、数分の出来事をテーマから逆算して肉付けする事で見事なまでに過不足ない映画に仕上げてくれています。
そんなボリュームアップの箇所や手法にこそイーストウッド監督の経験とスキルが見える、今作もそんな映画になっています。

ヨーロッパ旅行に訪れた、幼馴染の3人。
当初訪れる予定のなかったパリ行きの電車に何故彼ら3人がいたのか、そして何故あのような行動をとれたのか...
そんな「理由」を語るのに映されるのは、事件とは全く「無関係な日常」。
物語の「理由」と「無関係な日常」という、それぞれを単体で強調していれば、クドくて退屈になる要素ですが、本作はあえてそれを全面的強調、絡み合いながらラストに向かう事で、「え...本当に?本当に?」と吸い寄せられるようにドラマチックに盛り上げていきます。
無関係な日常にこそ、理由は転がってるんだと。
そしてあの一歩...あの刹那的な瞬間!
積み重なった日常とここに引き寄せられた奇跡のような必然に、感情が爆発して涙腺が崩壊してしまいました。

イーストウッド監督の映画の見せ方は今作も本当に大好きで、抱かれたい(!?)と感じるほどなんですが、一方で本人出演に関しては少し私は懐疑的です。
もたらされる現実感のメリットよりも、棒読みである事による作り物感のデメリットの方が大きかったかなと。

でもね...
こんな試みをする事だけで、もう本当に尊敬でいっぱいなのですし、映画全体のビジョンが大きくカバーしてくれてるから御構い無し!

イーストウッド監督の経験と技術だからこそ可能にした超アクロバティックの映画文法。

それが語る、刹那に繋がる奇跡の物語!


是非劇場で!
おススメです!!


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  1. 2018/03/20(火) 22:46:25|
  2. 2018年公開映画
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  4. | コメント:0

65『ダウンサイズ』平凡な人間の性

アレクサンダー・ペイン×マット・デイモン

人類縮小計画!?
『ダウンサイズ』



~あらすじ~
人間を14分の1のサイズにする技術が発明され、人口増加、経済格差、住宅などの問題解決に挑む人類の縮小計画がスタートする。妻のオードリー(クリステン・ウィグ)と共にその技術を目の当たりにしたポール(マット・デイモン)は、体を小さくすることで生活に関わるコストも縮小できることから現在の資産でも富豪になれると知って興奮し、縮小化を決意する。晴れて13センチになったポールだったが……。(シネマトゥデイ引用)







☆☆☆☆☆☆(65/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)
『ファミリー・ツリー』や『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』のアレクサンダー・ペイン監督最新作!
人間や個人のちっぼけさや限界をシニカルに見据えながら、だからこその暖かい着地を決める映画作家であり脚本家。
脚色や脚本賞に常連で、57歳にして既に風格が漂います。
そんなペイン監督が選んだテーマは、人間が小さくなるSF!?
主演をドラマを演じさせると普通の人間感が半端ないマット・デイモン。
ホン・チャウやクリステン・ウィグ、クリストフ・ワルツらが脇を固めます。



アレクサンダー・ペイン監督!!という事で、めちゃくちゃ楽しみに見に行ったのですが、非常に変わった映画でした。

日本初の『ウルトラQ』の「1/8計画」を彷彿とさせる設定。
地球規模の環境問題の救世主として始まった人類14分の1計画。
この縮小計画は一つのビジネスモデルとして確立し、一方で経済縮小の影響も顕著になるなど、社会的技術的にもこなれてきた中で、マット・デイモン演じるポールとその妻オードリーは、「ゆとりのある生活がしたい」という非常に平凡な理由で縮小化に挑みます。

が...しかし!?
この部分はネタバレで詳しくは避けますが、強烈な展開が、ザ平凡な男ポールに襲いかかります。
夫婦の決意から、この後のポールの対応まで、苦笑いの連続。
行き当たる壁と彼らの対応は、コミカルながらも平凡な人間の性を見つめる俯瞰的な視点が印象的で、あぁアレクサンダー・ペイン監督の映画を見てるんだなと非常に楽しめました。

そんな中で映画は中盤以降、全く異なるステージに遷移していきます。
地球規模の哲学に対する平凡な人間の性。
大きな視点に対する人間の小ささ、それによる滑稽さと温かさは、アレクサンダー・ペイン監督らしいといえばそうなんですが、映画として見ると唐突なテーマの肥大化に面を食らってしまいました。
何を見ているのかわからなくてなっていく...というのが正直な感想です。

ただその中でも、中盤以降登場するホン・チャウの存在感は脱帽です。
彼女がいなければどうなっていたのか...と思うほど、映画を盛り上げてくれます。

今作はこんな感じですが、アレクサンダー・ペイン監督は基本大好きなんで、次回作期待しています!!


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  1. 2018/03/18(日) 13:00:58|
  2. 2018年公開映画
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

85『ブラックパンサー』

右でも左でもなく前へ

マーベルスタジオ最新作!
『ブラックパンサー』



~あらすじ~
アフリカの秘境にあるワカンダで産出される鉱石ヴィブラニウムは、全てを破壊してしまうほどのパワーを持つ。歴代の王は、悪用されないように鉱石の存在を極秘にしていた。若くして王になったティ・チャラ(チャドウィック・ボーズマン)は、謎の男エリック・キルモンガー(マイケル・B・ジョーダン)がワカンダに潜入しようとしていることを知り……。
(シネマトゥデイ引用)






☆☆☆☆☆☆☆☆(85/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)
MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)18作品目にして、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で登場した陛下ブラック・パンサーの単独作品。
監督は『クリード チャンプを継ぐ男』や『フルートベール駅で』のライアン・クーグラー監督。
映画好きなら、この監督の名を聞いただけで「間違いないな」と確信するはずです。

ブラック・パンサーを務めるのは、シビル・ウォーから引き続き『42~世界を変えた男~』のチャドウィック・ボーズマン。
真摯な内面が顔からにじみ出ていますよね。
クーグラー監督作ではおなじみマイケル・B・ジョーダンがブラック・パンサーの好敵手を、ルピタ・ニョンゴやフォレスト・ウィティカー、ダナイ・グリラなどが陛下の側近を演じるという、主要キャラクターの大半が黒人で占められ、中でも多くの女性が活躍します。
この映画の意義というよりも、そういう大作映画が今までになかった方が問題ですが、「最高!全然ありだろ!」と納得させてくれるこの映画は、素晴らしく価値の高い作品です。



漆黒の陛下ヒーロー「ブラック・パンサー」
今作は、シビル・ウォーにおいて父でありワカンダ王国の前国王のティ・チャカが亡くなった、その舞台裏で繰り広げられる話が中心になります。

舞台となるワカンダは、実在しないアフリカの国家ですが、5つの部族と王に忠誠を誓う親衛隊は、実際のアフリカの部族にインスパイアされてデザインされます。
服装やルーツ、そして戦闘スタイルはそれぞれが際立っていて、彼らが大きなフィールド上で一つの画面に映る時は、スクリーンが本当に映えて最高です。
そんな部族描写にかけ合わさるのが、キャプテンアメリカの盾で使われる宇宙一の強度を持つヴィブラニウム鉱石がもたらした、超絶テクノロジー。
トニー・スタークびっくりの超絶テクノロジーが、アフリカの風景や部族描写と見事に融合し、最高の映画体験を提供してくれるのです。

そんなビジュアルのフレッシュさは、当然ながらそこだけで収束せず、物語上の意味をちゃんと持ちます。
何故、この国がユートピアで居られるのか?
秘密国家として繁栄したワカンダ王国。
自分達の資源であれば手を差し伸べられるはずの隣国の問題から目を背け、壁を作る事で守ってきた利益。
豊かさはとはなんだろか?
繁栄するワカンダ王国内部が陽とすれば、その陽を守る為に行った崇高な前国王ティ・チャカの過ち。
そこから産まれた陰の存在が敵となるギルモンガーです。
ワカンダの他国に対する内包主義と、ギルモンガーが唱える強制介入。
今の情勢にドンピシャなテーマを、ワカンダ王国のビジュアル的にフレッシュさと、魅力的な対立構造を絡めて提示する、申し分の無い構成で成り立っています。


ギルモンガーや前国王ティ・チャカをより深いキャラクターにするストーリー構造も秀逸です、
中盤で明らかになる「ある事実」により、冒頭の見え方が反転し、彼らをより多層的なキャラクターにしていきます。
やってる事は間違ってるけど、言ってる事は間違ってない。ていうか、やってる事も彼の見てきた事を考えると...
そんな矛盾に満ちつキャラクターを見事に体現するマイケル・B・ジョーダンの演技。
MCU史上最も魅力あるヴィランと言っても、過言ではないと思います。
また、テクノロジーマニアの妹ジュリや、ティ・チャラの元恋人で諜報員のナキア、ドーラ・ミラージュ最高の女戦士オコエなど、強くて可憐な女性キャラクターが魅力的です。


アクションに関しては、まるでDCな夜のアクションの見づらさは確かにあるのですが、それでも漆黒のブラックパンサーが、ネオンの巧みな利用とスパイダーマンもびっくりダイナミックなカメラワークによりカッコ良いです。
極めつけはラストの部族集団戦と個人戦が同居する群像的アクション!
広い空間を活かした見せ方がうまく、とにかく上がりました!!


シリーズを観てなくても、余裕で楽しめるのも大きな加点要素。
どちらにせよ、MCU史上5本の指に入るくらい好き!
是非劇場で!!

ワガンダ フォーエバー!


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  1. 2018/03/11(日) 16:04:38|
  2. 2018年公開映画
  3. | トラックバック:6
  4. | コメント:0

85『シェイプ・オブ・ウォーター』今の時代だからこそ

アカデミー賞、作品賞、監督賞受賞!
おめでとうございます!!

ギレルモ・デル・トロ監督、最新作!
『シェイプ・オブ・ウォーター』



~あらすじ~
1962年、米ソ冷戦時代のアメリカで、政府の極秘研究所の清掃員として働く孤独なイライザ(サリー・ホーキンス)は、同僚のゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)と共に秘密の実験を目撃する。アマゾンで崇められていたという、人間ではない“彼”の特異な姿に心惹(ひ)かれた彼女は、こっそり“彼”に会いにいくようになる。ところが“彼”は、もうすぐ実験の犠牲になることが決まっており……。
(シネマトゥデイ引用)







☆☆☆☆☆☆☆☆(85/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)
ついにやってくれた!
アルフォンゾ・キュアロン、アレクサンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥに続く、メキシコ三銃士の一人であるギレルモ・デル・トロ。
それぞれ『ゼロ・グラヴィティ』、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』でオスカーを受賞、デル・トロ監督だけ残される形となってました。

そんなデル・トロ監督と言えば、日本カルチャーからも大きな影響を受けた事でも有名で、度々クリーチャーが登場するなど、アウトサイダーの世界を描き続けてきました。
中でも、厳しい現実の中にファンタジーを見出す少女の世界を描いた傑作『ハンズ・ラビリンス』や、日本人が求めながら日本人には出来ずにいた実写ロボット映画を殆ど申し分ないレベルで作り上げてくれた『パシフィック・リム』は、宝物のような映画です。
子供心を大人の世界で表現する唯一無二の監督であり、そんな監督が描く怪獣恋愛映画がオスカーを射止めるなんて...
本当に歴史的なアカデミー賞でした。



作品に戻ると、今作は怪獣と女性の恋愛映画です。
『美女と野獣』がぱっと思い付きますが、デル・トロ監督はこのクラシック映画の全体は気に入りつつも、美男美女の不自由ない二人に落ち着く結末に納得がいかないと明言しています。
そんな監督が描く『美女と野獣』なんだから、当然生易しいものではありません。

サリー・ホーキンスが演じる主人公のイライザは、いわゆるな美女では決してありません。
そして彼女は、全く声を出す事が出来ないのです。
この映画で衝撃的なのが、この女性の日常の一部として、オナニーシーンが幾度か描かれる事です。
美化する事など決してしない、エロチシズムの感じない日常の行為。
そんな避けがちでありながら、でも日常としては必ず存在する描写を避けていない事が、この映画の大事なポイントでもあります。

主人公のイライザもさる事ながら、この映画の主要人物は、社会的にマイノリティな人達です。
同僚のゼルダは当時またまだ差別が大きかった黒人、しかも女性。
イライザの親友である老人男性ジャイルズは同性愛者。
そんなイライザを後押しする面々はマイノリティで構成されながら、彼女と対峙して"彼"を解剖の為に殺そうとする軍人ストリッグランドが当時の典型的な「成功したアメリカ人像」であるのが非常に面白い所です。
ストリッグランドの行い自体は、彼の時代や価値観の中では正しい事なんです。
普遍的な正しさを見失わないことは非常に難しいのかもしれません...

そんな中で、イライザと「彼」の愛は止まりません。
「彼」の姿は、人間のような輪郭をしながらも決して人間にあらず。
可愛いとか美しいとか、見た目から思う事は決してないでしょう。
それはイライザの日常から感じる印象も同じ。
彼らは見た目や言葉ではなく、彼ら自身に惹かれているのです。
そして、彼らを後押しするマイノリティな人達も、最終的には型にはまった正義ではなく、普遍的な正義を見出します。
型にはまって他者との間に壁を作るこの時代だからこそ、型ではなく生々しい本質を捉える二人の愛こそ極上に美しく、必要なんだと感じました。


このように普遍的な愛の美しいを見せる為に、出来る限り型だけを排除したこの映画にあって、しっかりグロもエロも避けずに描いている為、「彼」の造形含めて生理的に受け付けない人は多くいると思います。
はっきり言って、恋愛映画でありながらデートには向いてません。

一方で、デル・トロ監督曰く「一つの音楽のような映画にしたい」とあって、ディテールにこだわった映像と音楽は一貫した世界感を作り出します。
生々しさを物語としては見せながらも、通して寓話的な「美しさ」が印象に残る全体デザインの素晴らしさは、デル・トロ監督だからこそ。
「極上の映画のルック」をずっとしてくれてるんですよね。

また、この映画はある人物の語り部で始まり、そして終わるというのが非常に面白いんです。
具体的にはネタバレになるので書きませんが...
この映画は誰の視点なのか?
そう考えると、美しすぎるラストの映像は見え方がまた変化して、より寓話性が増しますよね。


デル・トロ監督だからこその、普遍的でありながらも今の時代の映画。
是非、今!劇場で観てください!!
超おススメです!!!

デル・トロ監督おめでとう!!!




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  1. 2018/03/06(火) 19:01:22|
  2. 2018年公開映画
  3. | トラックバック:10
  4. | コメント:2

2018年アカデミー賞予想!!

昨年に続き、アカデミー賞を予想してみます!



昨年は、14部門予想して12部門的中するという自分でも驚きの結果。
今年は特に作品賞が激戦で、昨年末くらいまでは本命がなく4.5部門に受賞の可能性があった程。
ここにきて絞れてはいますが、果たして...
また、昨年に続いて反トランプ色が強く出るのかや、#Me too運動の影響にも注目です。



2018年アカデミー賞予想!

・作品賞
『シェイプ・オブ・ウォーター』
自信なし!全然なし!!笑
最多ノミネートであり、激戦の中でも影響力の高い米・製作者組合賞(PGA)など比較的多くの受賞を重ねてきたのがこの映画。
しかし、これまでの長い歴史で、作品賞を獲る作品は一度の例外を除いて俳優組合賞(SAG)キャスト賞にノミネートされていましたが、シェイプ・オブ・ウォーターはノミネートされていません。
ましてやモンスター映画..,
そうなると安定して名前が上がっていて、GG賞や英国アカデミー、トロント最高賞をとり、Me too運動の影響も受けそうな『スリー・ビルボード』が普通に考えると本命...そんな事は分かってます!笑
ただ今の時代に必要なのは、シェイプ・オブ・ウォーターにこそ詰まってる、そうであって欲しいと想い、こちらに賭けてみます。
もう一つ、賞レースで最多受賞のゲット・アウトに黒人票が集まる可能性も捨てきれません...

・監督賞
ギレルモ・デル・トロ 『シェイプ・オブ・ウォーター』 
自信あり。
メキシコ3大監督でまだオスカーを獲っていないのがデル・トロ監督。ここはかたいでしょう。

・主演男優賞
ゲイリー・オールドマン 『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』
自信あり!
殆ど一択状態。GG賞やSAGに続き、波乱はないでしょう。

・主演女優賞
フランシス・マクドーマンド 『スリー・ビルボード』
少し自信あり!
シェイプ・オブ・ウォーターのサリー・ホーキンス、レディ・バードのシアーシャ・ローナンと争うも、GG賞、SAG賞、英国アカデミーを独占しほぼ当確。

・助演男優賞
サム・ロックウェル 『スリー・ビルボード』
自信あり!
こちらも殆ど一択状態。GG賞やSAGに続き、波乱はないでしょう。

・助演女優賞
アリソン・ジャネイ 『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』
自信あり!
こちらも殆ど一択状態。GG賞やSAGに続き、波乱はないでしょう。

・オリジナル脚本賞
『ゲット・アウト』
自信なし...
脚本家組合賞(WGA)のゲット・アウトか、GG賞と英国アカデミーのスリー・ビルボードか、一騎打ち。
全体バランスを見て、予想はゲット・アウトで!

・脚色賞
『君の名前で僕を呼んで』
自信あり!
脚本家組合賞(WGA)、英国アカデミー賞同様、波乱なく受賞するのでは。

・撮影賞
『ブレードランナー 2049』
自信あり!
シェイプ・オブ・ウォーターの可能性も僅かに。

・編集賞
『ベイビー・ドライバー』
難しい...
米・映画編集者賞(ACE)のダンケルクと、クリティクス・チョイス・アワードや英国アカデミー賞の『ベイビー・ドライバー』との一騎打ち。
希望込みでベイビー・ドライバーで!

・美術賞
『シェイプ・オブ・ウォーター』
僅かに自信あり。
米・美術監督組合賞(ADG) を分け合ったシェイプ・オブ・ウォーターとブレードランナー2049の一騎打ち。
その他賞レースの流れからシェイプ・オブ・ウォーターで。

・衣装デザイン賞
『ファントム・スレッド』
僅かに自信あり。
衣裳デザイナー組合賞(CDG)を撮ったシェイプ・オブ・ウォーターの可能性もあるが、クリティクス・チョイス・アワードや英国アカデミー賞などからファントム・スレッドで。

・メイキャップ&ヘアスタイリング賞
『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』
自信あり!
日本人メイクアップアーティストの辻一弘さん受賞なるか?賞レースを独占しており、ほぼ確実。

・視覚効果賞
『猿の惑星: 聖戦記』
僅かに自信あり。
サテライト・アワード、BAFTA英国アカデミー賞のブレードランナー2049の可能性もあるが、これまでこの賞でノミネート止まりだった猿の惑星 新三部作の最後という事で、有終の美を!

・録音賞
『ダンケルク』
自信あり!
賞レースを独占しており、ほぼ間違いなし。

・音響編集賞
『ダンケルク』
僅かに自信あり。
ブレードランナー2049やベイビー・ドライバーの可能性も捨てきれないが、果たして。

・オリジナル作曲賞
『シェイプ・オブ・ウォーター』
僅かに自信あり。
ファントム・スレッドとの一騎打ちも、作品の強さが後押ししてシェイプ・オブ・ウォーターで。

・オリジナル歌曲賞
『グレイテスト・ショーマン』‘This Is Me’
僅かに自信あり。
リメンバー・ミーやシェイプ・オブ・ウォーターの可能性もあるが、 これが全てである作品の性質からグレイテスト・ショーマンと予想。

・長編ドキュメンタリー賞
『イカロス』
自信なし...
大混戦でどれも未見の為、予想が難しい。
アカデミー賞をとる意義は?が残るが、オリンピックの流れを受けてこの作品と予想。

・長編アニメーション賞
『リメンバー・ミー』
全部門中、最も自信あり!!
ピクサー強し。もうここで何も言うこともなし。

・外国語映画賞
『ナチュラルウーマン』チリ
自信なし...
パルムドールを受賞したスウェーデンのザ・スクエア思いやりの聖域の可能性も高いが、果たして...



以上、21部門を予想!!
果たして....



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  1. 2018/03/04(日) 21:39:41|
  2. アカデミー賞
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  4. | コメント:0

65『グレイテスト・ショーマン』最高の芸術とは...

話題沸騰中のミュージカル映画!

『グレイテスト・ショーマン』



~あらすじ~
P・T・バーナム(ヒュー・ジャックマン)は妻(ミシェル・ウィリアムズ)と娘たちを幸せにすることを願い、これまでにないゴージャスなショーを作ろうと考える。イギリスから奇跡の声を持つオペラ歌手ジェニー・リンド(レベッカ・ファーガソン)を連れてアメリカに戻った彼は、各地でショーを開催し、大成功を収めるが…
(シネマトゥデイ引用)







☆☆☆☆☆☆(65/100)
CMクリエイター、マイケル・グレイシーさんの初監督作品。
彼の手がけたCMはこちらで確認出来ます。
〈マイケル・グレイシーCM映像集〉
音楽とVFXを活かしたハイセンスな映像作家のデビュー作は、我らがヒュー・ジャックマン主演のミュージカル映画。
いきなりビッグタイトルを任せられた驚きもさる事ながら、実写版NARUTOの監督も決まってるそうで、色んな意味で目が離せない監督である事は間違いない。
今作はザック・エプロンとミシェル・ウィリアムズの売れっ子に加えて、非常に個性のある役者が登場し、彼らがこの映画の大きな肝となっています。


映画、サントラともに日米で大ヒットを記録している今作。
その評判に違わず、冒頭から一気に心を掴みにきます。
オープニングアクトな「the greatest show」は迫力十分で、これぞミュージカル映画!という圧巻の佇まいでいきなり最高の高揚感に包んでくれるのです。

今作の主人公、ショービシネスの概念を覆していくバーナムは実在の人物。
そんな彼が、幼少期の出来事を経て掴んでいく成功、そして味合う挫折を、ミュージカル形式を多用し非常にテンポよく描いていきます。
今作ではミュージカルシーンは、大きく二通りに大分されます。
日常で感情をぶつけて歌うシーン、ショーのパフォーマンスとして歌うシーン。
特に素晴らしいのが劇中劇となる後者です。
何度かある、実際の物語から地繋ぎに放り込まれるショーシーンが圧巻。
物語上で少しずつ高まってきたポジティブな想いに対し、そのままの流れでショーに放り込まれる事で、「そうなんだよ!」と説得力増し増しで、兎に角上がります。
この時に感じる多幸感だけでも、今作は間違いなく観る価値があります。


ここからは、あくまで個人的に...
概ね好評なこの映画に対して、消化しきれない気持ちをぶつけさせてもらいます。

色々とあるのですが...
兎に角この映画に「上手くまとまった風」があまりにも多い。
ミュージカルシーンの勢いで、物語をごまかしているのです。
そうじゃないだろと、何度も叫びたくなりました。

そもそも、映画におけるミュージカルシーンの意義は、ストーリー中に見えてきた流れを加速的に説得力を持たせる事に有効だと考えています。
だからこそ前述したショーシーンはミュージカル映画として最高なのです。
しかし、全く有り得ない流れをミュージカルシーンで強引に作り出したり、逆に周知の事実をクドくミュージカルに乗せて歌われると、冷めてしまいます。
今作のショーシーン以外の使われ方は、特に前者が多く、「そんな上手い事...」と感じてしまいました。

そして、そんな構成の最大の被害者は「マイノリティな劇団員」です。
偏見や差別と戦う彼らは、この映画の大きなテーマの一つ。
しかし、それが完全に上記問題により裏目に出ています。
初めてショーに出る時の葛藤は並大抵の事ではないはずだし、あんな仕打ちをしたバーナムをそう簡単に許せるはずはありません。
それなのに、音楽一つ「上手くまとまった風」で誤魔化す。
彼らは「バーナムの物語」上で動いてるに過ぎず、この映画を盛り上げる為、テーマを伝える為に利用されている。
彼らが映画自体の道具にしか見えないって、正に劇中劇で感じる危うさと同じでは...
本当に薄っぺらい映画に見えてしまいます。

他にもネタバレになるので書きませんが、ラストの大オチも全く持って納得いきません。
それって対象は違えど中盤と同じ事では...
何故あんなラストを選んだのか、理解できません。


ちょっと苦言を書きすぎてしまいましたm(_ _)m
多分、世間の評判の良さが納得できない、そんな性格の悪さからです笑

しかし!!
私は少数意見。皆さんにとっては面白いはず。
私にとっても良い所は沢山ありました!
是非、劇場で。



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テーマ:映画感想 - ジャンル:映画

  1. 2018/03/04(日) 21:08:37|
  2. 2018年公開映画
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