シネマ・ジャンプストリート

劇場公開映画を中心にレビュー 映画の良さと個人的感想を。

☆9『ザ・ホワイトタイガー』Netflix 成り上がり最高最低

Netflixオリジナルのインド版スコセッシ風パラサイト!

『ザ・ホワイトタイガー』



~あらすじ~
インドの貧しい村出身の青年バルラム・ハルワイ(アダーシュ・ゴーラヴ)は、裕福な一家の運転手となる。生まれた身分から使用人になるしかない彼は、抜け目なく立ち回り主人からの信頼を得ていくが、ある出来事をきっかけに、雇い主一家が自分をわなにはめ犠牲にしようとしていることに気付く。野心的なバルラムは不公平で腐敗した社会に服従するのではなく、自ら運命を切り開くべく立ち上がる。(シネマトゥデイ引用)

9/10★★★★★☆☆☆☆

以下 レビュー(核心のネタバレなし)
Netflixオリジナルのインドを舞台とする成り上がり自伝映画。注目はイギリスで最も栄誉ある文学賞ブッカー賞を受賞したアラヴィンド・アディガのベストセラー小説だという点。
監督をつとめるのは、『ドリーム  ホーム 99%を操る男たち』などのイラン系アメリカンのラミン・バーラニ。主人公を初長編映画で大抜擢のアダーシュ・ゴーラヴ(注目!)が演じ、実績充分のラージクマール・ラーオや両国で活躍する『バルフィ!人生に唄えば』のプリヤンカー・チョープラーらが脇を固めます。

終始不安定で、だからこそ面白い!!

控え目に言って傑作ですよ。
一つに、本作の素晴らしさを引き立てる大きな要素になっているのが、インドに残るカースト制度の面影。既に無くなった差別制度なんだけども、その影響が人々の思想と仕組みに確実に残っていて、それが主人公が生きる世界に、亡霊の如く付き纏い離しません。
個人的に世界各国の映画を見る上で最もサブイボ要素なのがその国だからこその「社会問題」を背景に含みつつ、そこを訴えかれる事が主題というよりは、作品の面白さを際立たせる為に機能している事です。本作はまさにドンピシャで、インド文化の背景があるからこそ映画自体が面白くなっていて、その上で考えさせられる、そんなバランスになっていて、本当素晴らしいんですよ。

本作において具体的には、カースト制度由来の差別意識が、意識的、無意識的に限定されずあらゆる人の思想にこべりついているのですが、それ故に今にも爆発しそうな不安定さが作品中に漂っていて、それが本当最高なんです。また最終的にそれが...といった、アカデミー賞作品パラサイトと共通した震えるバランスの映画に仕上がっていて、いやはや流石でした。

また、更に個人的プラス要素なのが、ストーリーとその語り口にあります。非合法な手段も時には含みながら成り上がる完全にスコセッシの『ウルフ・オブ・ウォールストリート』や『グッドフェローズ』の物語性を持ちながら、更に語り口も完全にスコセッシさながらの軽快な回想ベースの導入になっています。
つまりこの映画って、インドだからこその背景を活かしながら、スコセッシの語り口で描かれる、パラサイトなバランス感覚の映画になっているんです。。そりゃ最高でしょう。

こんだけ褒めて、まだそれじゃないのよね。映画自体の終わらせ方は、スコセッシが出来なかった凄い危険な終わり方をしてるんだけど、映画全体の映し出し方がある意味それを否定しているから成り立ってるという、プラスαな事までしています。

また、主人公の表情と人物造形が最高なんですよ!カースト制度の名残で、まるで檻で飼われる事が身体に染み付いている難しい役所なんですが、彼が使用人として見せる笑顔の作り方が最高で一発納得で体現しています。一方で時折みせる彼の隠れた利己性も要注意で、それが大きく映画を動かすのですが、まあそれも納得な人物造形がされています。

netflixオリジナル作品史上、1、2を争うくらい好きな映画です。是非見てください!

  1. 2021/02/10(水) 00:01:21|
  2. 2021年公開映画
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☆6『名も無き世界のエンドロール』パズルの様な心地よさ

一日あれば、世界は変わっちゃうんだよ...

『名も無き世界のエンドロール』



~あらすじ~

共に親のいない幼なじみのキダ(岩田剛典)とマコト(新田真剣佑)は、自分たちと同じ境遇にある転校生ヨッチも交えて支え合いながら成長していく。だが、20歳になったときに直面した事件が原因で彼らの人生は大きく狂ってしまう。その後、キダは裏の社会で殺人もいとわない交渉屋として暗躍し、マコトは彼の力を借りながら表の社会で貿易会社社長として成功をつかむ。やがて2人は、10年もの歳月を費やして立てた計画を遂行する。(シネマトゥデイ引用)

6/10★★★★★☆

以下 レビュー(核心のネタバレなし)
『キサラギ』や『ストロベリーナイト』シリーズの佐藤裕市監督によるサスペンス映画。ギタを演じる岩田剛典とマコトを演じる新田真剣佑のW主演。新田真剣佑の銀幕映えは言わずもがな、岩田剛典のサスペンスにおける存在感と立ち回りは『去年の冬、きみと別れて』以来大好きで今作も楽しみにしていました。また本作は、小説すばる新人賞を受賞した行成薫の同名小説が原作になります。

交通整理が気持ちよい!

クライマックスとなる「プロポーズ大作戦」なるものの直前から始まり、そこから遡った二つの時代[遠い過去=青春時代]と[近い過去=社会人時代]を交互に交えながら、再びクライマックスへ向かっていくという手法がとられています。
その中で、間違いなく言葉通りの意味ではない「プロポーズ大作戦」の全貌を大きな謎として含みつつ、[青春時代]でヒントと伏線を散りばめ[社会人時代]で作戦決行に至るまでのギタとマコトを含みを持たせて描いて行きます。
プロポーズ大作戦の全貌と同じく大きな謎となるのが、第三の人物ヨッチの存在です。[青春時代]には登場する彼女が[社会人時代]には登場しない謎。これがプロポーズ大作戦の全貌に大きく関わってきます。このような時間軸を使った謎の提示、伏線の散りばめ、そして回収を、物語自体への推進力を維持したまま進めていく、映画全体の交通整理が素晴らしくその辺りは非常に楽しめまた。
これは、脚本だけでなく、佐藤裕市監督の手腕も相まっての事だと思います。

また、セリフの活かし方も非常にクールです。
「完璧主義者は欠陥品」
「一日あれば、世界は変わっちゃうんだよ...」
「押さなきゃボタンが可哀想だよ」
など、過去のヨッチの印象に残るセリフが物語展開への伏線として機能しているのは、素直にすごいなと思いました。

一方で、物語が展開していく要素や動機となる部分が「稚拙」なのが目につき、これは非常なや残念でした。正直、「そんな事には絶対にならない」と突っ込む所は多いのかなと思います。
ただ一部言われている「彼のクライマックスの行動」は個人的には稚拙と全く思わないし、動機付けするある一言を含めて、むしろ共感し、突き刺さる物がありました。

ただ、役者陣は良かったです。中でもネタバレになるので言えないのですが...中村アン!!あまり登場場面は多くはないのですが、彼女のキャラクター造形と雰囲気ぐめちゃくちゃ良かったです。


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  1. 2021/02/03(水) 22:47:06|
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⭐︎9『ヤクザと家族 The Family』今年最初のサブイボ映画!

藤井道人監督による最後のヤクザ映画

『ヤクザと家族 The Family』


~あらすじ~
1999年、覚せい剤が原因で父親を亡くした山本賢治(綾野剛)は、柴咲組組長の柴咲博(舘ひろし)の危機を救ったことからヤクザの世界に足を踏み入れる。2005年、ヤクザとして名を挙げていく賢治は、自分と似た境遇で育った女性と出会い、家族を守るための決断をする。それから時は流れ、2019年、14年間の刑務所暮らしを終えた賢治だったが、柴咲組は暴力団対策法の影響で激変していた。
(シネマトゥデイ引用)

9/10★★★★★☆☆☆☆

以下 レビュー(核心のネタバレなし)
『新聞記者』や『デイアンドナイト』の藤井道人監督最新作!ヤクザの行き方を選んだ主人公山本賢治を演じるのは綾野剛。狂った役を演じさせると憑依した如く抜群に上手いので本作も期待。他にも賢治が踏み入れる柴崎組の組長を舘ひろしが、ファムファアール的存在となる女性を尾野真知子が、更に北村有起哉や市原隼人、磯村勇斗、寺島しのぶらパワーある面々が脇を固めます。

すげぇ面白いです

極道前の99年、極道中の05年、そして極道後の現代。本作は三つの時代に分けて描かれるのですが、極道を取り巻く社会環境が変化する中で、ヤクザが社会を翻弄する側から社会的弱者になるまでの変化を捉える物語になっています。

賢治がまだ狂犬的で狂った熱量の帯びる第一幕。東映ヤクザ映画的で力強く熱い第二幕。そこからのギャップで失望と希望が目まぐるしく展開する第三幕。一幕では空白だった賢治の人間らしさが次第に獲得されていくにつれ、社会は彼を断罪していきます。極道が画面を制圧する前半と、ギャップから打ちのめされる後半と、全ての幕でテンションは違えど熱気に満ち、圧倒的で、とにかく面白かったです。

その中でも特に印象的なのがラストシーン。全幕熱気に満ちて面白いのですが、全てはラストへ繋がる導線のようにすら感じてしまいました。救いと希望、はたまた絶望。両方を感じうるラストは自分でも謎の感情で涙が出ました。

エンドロールも素晴らしいんですよ。映画全体の視点が、半グレなど次の世代に対する「このままじゃ、俺らみたいなるぞ」という所まで網羅されてるのがまた凄いんですよね。
また、この映画は家族や家族的な物、そんな大切な物の価値を再確認させてくれる映画でもあり、まさか自分の平凡な日常がこんなに愛おしく感じるようになるとは思っていなかったです。

さらに役者も素晴らしいです。綾野剛の3時代の変化は彼のベストアクトだなって思いますし、『日本で一番悪い奴ら』でも感じたのですが、狂った奴演じさせたらとてつもなく魅力的ですよね。あとは市原隼人も良い。しれっとインしてきたくせに、アウトする時には印象が強烈に残っている。この映画の肝となる社会の変化は彼の佇まいこ変化が全てを物語ってますよね。そして磯村勇斗。半グレのリーダー演じる第三幕の存在感は一番ですし、ラストの目の演技はただ物じゃないなと...

今年ベスト級に面白い映画なので、是非観て欲しいです!!

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  1. 2021/02/02(火) 16:01:32|
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