細部まで計算され尽くした、美しい映画
『海街diary』

~あらすじ~
家族を捨てた父が死んだ。長女の幸(綾瀬はるか)、次女の佳乃(長澤まさみ)、三女の千佳(夏帆)の元に連絡が入る。三姉妹は、父の葬儀に出席する為に、生前に暮らしていた山形へと向かうと、そこで異母妹のすず(広瀬すず)と出会う。既に母も亡くしており、身寄りがなくなった中でも気丈に振る舞うすず。
そんな彼女に対し、姉妹として一緒に暮らさないかと、三姉妹は提案する。
そんな中、自分達を捨てた母が家に...
⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️(85/100)
以下、レビュー(核心のネタバレなし。)
~今最も世界で評価される日本人監督~
豪華女優陣で固めた今作を監督するのは、
『ワンダフルライフ』や『誰も知らない』、『そして父になる』の是枝裕和監督。
作家性と興行性を、非常に高いレベルで両立する日本では類を見ない天才監督なわけですが、もうぶっちゃけ大好きです。
何が大好きって、何気ないシーンのはずなのに...何故か泣ける。そんな事ある?な、映画を連発してる訳で...
淡々とした語口のなかで、さりげなく急に訪れる展開にどきっとさせられたりする。『そして父になる』なんて、1リットルは涙が出た。
作品の特徴としては、テレビのドキュメンタリー番組出身という事もあり、基本的にはドキュメンタリータッチ。手持ちカメラを使ったり、周囲の音や光をあえて入れ込んだり。
そして、日常の一部を切り取って、繋ぎ合わせる、「カット オブ ライフ」の天才。彼の作品から感じる「そこにいる感」、だからこそある人間の多面性。
豪華な女優陣にも関わらず、今作が醸し出す日常の美しさは、是枝監督だからこそだろう。
そんな是枝作品の中で、常に中心にいるのが、何が大事な部分を無くしてしまった人。そんな人物が、わずかだが、確実に大きな変化が物語が終わった頃には訪れている。そんな葛藤を露骨に表現するのではなく、会話の内容とは裏腹な感情を映す事で表現するのだから凄い。
そして、もう一つ。子供を作品の中に自然に映し出すのが途轍もなく上手い。
『誰も知らない』では当時全くの無名だった、柳楽優弥くんを史上最年少のカンヌ主演男優賞に導いた。そんな彼が「当時は演技をしているとは全く思わなかった」と言ったのは、是枝監督の「台本を渡さず、その場で台詞を教えて即興で演技をさせる」というとんでもない手法の為。今作でもその手法が、今をときめく10代女優の広瀬すずに効果を発揮、見事な四姉妹のアンサンブルを実現させている。
もちろん、豪華俳優陣も見所。主演の4人もそうだが、脇を固める俳優陣が良い味を出してる。
~美しい風景と食事~
今作の元になったのは、同名の人気コミック。現在6巻まで発刊し、文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞に輝くなど、大変評価されている作品みたいですが、すみません、未読です....
その漫画同様に、今作においても実際の鎌倉が舞台。駅や、海岸、桜並木など様々な実在の景色がでてくるが、是枝監督の光の演出と相まって美しい。これが作品の雰囲気の美しさ、心地良さをより一層引き上げる。
鎌倉に行った事がある人なら、あー!あそこ!!って必ずやテンションが上がるはず。
もちろんでてくる食事も現地のもの。それを、美女達が美味しそうに食らう。ああ
生シラス丼が食べたい....
~心地良さと、変化や葛藤~
今作の大きな魅力は、それぞれに個性を持った四姉妹がおりなす、癒される会話シーンだろう。日常を切り取った美しく、心地良いシーンの連続。
ありそう...なリアルな日常描写で、笑かしてもくれる。どちらかと言うと、後でふつふつくる系。
財布とりに帰る下りとか...自然過ぎてたまらない。
一方で、意味のない美しいだけのシーンばかりという人もいる。
でも決してそうは思わない。
例えば物語の中心にいる四女のすず。
初めて自分の居場所かも?と期待し始めたすず、父の罪を感じ無理して頑張っているすず、自分の想いや自分が独占していた父の事を少しずつ話せ始めたすず。
それらの葛藤は、直接的にはあまり語られないが、美しシーンの連続の中でもしっかりと変化している。
一見悪いように感じる人も、決して責める事は出来ないと、物語が進むにつれて思い始めたりもする。
父は、こんなに素晴らしい家族を残してくれた。
また、映画としてはこんなに爽やかな印象なのに、実は終始死の匂いがしている。それが目立たないのは、料理や趣味、性格など、継がれていくものに焦点を当てているからに過ぎない。
一つ一つは意味のないようなシーンが積み重なって、人や物事が多面的に見えている。
~すずの想い~
幼い三姉妹の元から、母親は去ってしまった。
それは、父が他の女に奪われた事が原因で。
すずにとっては、自分の母親が彼女達から父を奪ったせいで、三姉妹と母親の間には埋めようかない溝が出来てしまった。
そのような状況で自分の父や母への思いを、すずは言える訳もない。
父の思い出は自分しか持っていないという罪悪感。
母に対する怒り。三姉妹から父を奪った怒り、自分を残して早く死んだ怒り。
一緒に暮らす事で、少しずつ湧いてくる、すずの中にあるモヤモヤを想像すると、心がぎゅっと締め付けられる。
~想像の世界で涙が止まらない~
時に映画の中の会話が、フィクションとは思えないほど、リアルで多層的に感じる時がある。
話している事と、彼らの内面が必ずしも一致しない時だ。
「海猫食堂」の店主(風吹ジュン)が、自分の運命を受け入れながら、すず達に話すシーン。
「山猫亭」の店主(リリーフランキー)が、「海猫食堂」の店主について語るシーン。
母親が、自らの過去に触れずにあっけらかんに話すシーン。
三女が、何も考えてないように陽気でいるシーン。(お父さんも釣りを好きだったって聞いた時の表情が、彼女の悩みも物語ってるよね...)
そのような状況だからこそ、想像の世界の中で爆発的なカタルシスが得られる。
語りすぎていない分、
一人一人の気持ちに焦点を当てると、とんでもなく奥行きが広がっていく、なんて美しい作品...
無茶苦茶オススメです!!!
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