
~あらすじ~
59歳のダニエル(デイヴ・ジョーンズ)は、イギリス・ニューカッスルで大工の仕事に就いていたが、心臓の病でドクターストップがかかる。失職した彼は国の援助の手続きを進めようとするが、あまりにもややこしい制度を前に途方に暮れる。そんな中、ダニエルは二人の子供を持つシングルマザーのケイティと出会う。
(シネマトゥデイ引用)
☆☆☆☆☆☆☆(75/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)
昨年度のカンヌ映画祭において、最高賞であるパルムドールを受賞した作品。
パルムドールといえば、かの山田孝之が目指し狂い死んだ、世界で最も栄誉ある映画賞。
そんなtop of topを、今作で2度目の受賞となったのが、『麦の穂を揺らす風』の80歳の巨匠ケン・ローチ。
ヨーロッパの巨匠といえば、芸術映画寄りな印象が強いが、ケン・ローチは決してそうではありません。
徹底して労働者階級の作品を製作し続けた、リアリズム重視な社会派な監督であるのは間違いないのですが、いわみるヨーロッパ映画的な湿度の高い演出はほとんどありません。
そんな巨匠が、前作『ジミー、野を駆ける伝説』から引退撤回してまで撮った、最新作にしてパルムドール受賞作。
嫌が応にも期待が高まります。
大工の仕事に就くダニエルは、心臓に病を患い、主治医から仕事へのドクターストップを受けてしまいます。
彼は生活保護手当を申請するも、就労可能と診断され、では失業手当をと申請すると、就職活動をしないとダメ!と言われてしまいます。(だから働けないんだって!)
反論したくても、立ちはだかるのは形式化されたお役所仕事、形だけの情報化社会。
電話はなかなか繋がらない、異議申し立てに必要なインターネットもわからない、役所に直談判しても怪訝な目で対応される。
形式化された制度に従わなければならず、それらは弱者にはあまりに複雑で不親切でも、手を差し伸べる制度でない。
ただ、彼の身に立てば、これもうどうしようもない。
こんな理不尽なことがあっていいのかよ!!!
怒りが、激しく心を揺さぶります。
そんな中で出会ったのが、シングルマザーのケイティと二人の子ども。
自分同様に、いやそれ以上に、制度の中でもがいている彼女達を見て、彼は自然と手を差し伸べます。
自分が苦しい状況真っ只中にも関わらず。
沈んだ物は沈むしかない、そんな弱者に弱い社会の中で、追い風を作れるのは、人と人のつながりしかない。
人間が人間らしく生活をする為に必要な物。
こんなにも真っ当で普遍的で優しさに満ちたメッセージが、全く気取らずに作品を覆ってします。
この映画は、緊縮財政と福祉保障制度改革の結果、最も弱者に苛酷な時代と言われるまでになったイギリス社会、そしてそれらを作ってしまっている人々への、「そうじゃねぇーだろ!」というカウンターで作られた作品です。
ですが、覆っているテーマは、日本に住む我々にも、どんな国にも当てはまる普遍的なものです。
隣の誰かを助けるだけで、人生は変えられる。
公式サイトから引用します。
「生きるためにもがき苦しむ人々の普遍的な話を作りたいと思いました。死に物狂いで助けを求めている人々に国家がどれほどの関心を持って援助しているか、いかに官僚的な手続きを利用しているか。そこには、明らかな残忍性が見て取れます。これに対する怒りが、本作を作るモチベーションとなりました。」
(ケン・ローチ)
気取らずシンプルで、わかりやすい。
なのに、薄さなど微塵もなく、胸の奥を突いてくる。
巨匠ケン・ローチだからこそできる御技。
引退を徹底してまで伝えたかった事、是非劇場で味わって下さい。
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