シネマ・ジャンプストリート

劇場公開映画を中心にレビュー 映画の良さと個人的感想を。

70『ムーンライト』ただそこに生きるという事。

付かず離れずで美しい。

アカデミー作品賞受賞作!

ムーンライト』



~あらすじ~
マイアミの貧困地域で、麻薬を常習している母親ポーラ(ナオミ・ハリス)と暮らす少年シャロン(アレックス・R・ヒバート)。学校ではチビと呼ばれていじめられ、母親からは育児放棄されている彼は、何かと面倒を見てくれる麻薬ディーラーのホアン(マハーシャラ・アリ)とその妻、唯一の友人のケビンだけが心の支えだった。そんな中、シャロンは同性のケビンを好きになる。そのことを誰にも言わなかったが……。
(シネマトゥデイ引用)







☆☆☆☆☆☆☆(70/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)
世紀の大逆転(大珍事?)でアカデミー作品賞を受賞した話題作。
監督・脚本は、これまで短編映画を中心に手がけてきたバリー・ジェンキンズ。
初めての長編映画監督ではありますが、制作には近年のオスカーの主役、ブラッドピッドも名を連ねるなど、本気度は充分。
私の感想はさておき、インディペンデント系の小規模な秀作映画に、アカデミー賞という世界最大級のショーが光を当てるのは、めちゃくちゃ意義深い事だと思います。


感想をさておいた理由。
正直、どう評価して、どのような感想を書くべきなのか、戸惑っています。
というのもこの映画、全然盛り上げてきません。
かといって、テーマをずどんと落としてくる訳でもなく...
正直見ている最中は「面白い!」なんて思いませんでしたし、寧ろ「これは何の映画なんだ??」となり、睡魔が襲ってきました。
しかしこの映画の価値は、この付かず離れずの距離感にこそあるという事に、見終えてしばらくしてから、気がつきました。


今作は、少年期、多感な10代、そして大人に...という3つのライフステージの変化で分けられる、3部構成になっています。
「リトル」というあだ名であった主人公シャロンの少年時代。
そんな彼が、いじめ、虐待、自己の性への葛藤...それらから逃げ切る訳でも、乗り越える訳でもなく、抱えながら成長し、「ブラック」と呼ばれる売人になるまでを、優しく描きとります。

「いじめ」、「虐待」、「同性愛」と、彼が成長過程で向き合わないといけないものは、文字にすると壮絶です。
一つで映画に出来そうな苦難を、複数彼は背負っていきます。
しかし、それらに対して、決してドラマチックに盛り上げません。
黒人主人公ドラマならイコールで結びつけられがちな人種差別要素なんてのは、全く触れられず、ただの背景に過ぎません。
映画的に絶対に活きてくるべきであるような序盤の教訓台詞も、彼の人生へは還元されていきません。
そんな彼が辿っていく成長に対しても、作り手は肯定も否定もしません。
それら苦難を平坦につなげたこの人生が、彼が知る「唯一の人生」であり「普通の人生」。
そんな彼目線の映画になっています。

それでいて、優しく見つめる第三者目線の映画にもなっています。
というのも、ここだけは誰しもが肯定する所だと思いますが、この映画のビジュアルがとにかく美しい。
特にムーンライトの意味が画的に印象づけられるナイトシーン。
この美しさが、ストーリーをドラマチックにしない事を意味あるものにしていきます。
肯定も否定もしていないけれど、美しい。
そんな目線が作中をずっと覆っているように感じました。

アカデミー賞助演男優賞を獲得した、マハーシャラ・アリの、出演時間は短いながらも印象を残す存在感は抜群でした。
どうしようもなう駄目な母を演じたナオミ・ハリスの、元ボンドガールなんてのは微塵も感じさせない熱演も圧巻でした。


リアリズムなんだけど、ただただそれが美しい。
賛否は間違いなく分かれますが、アカデミー作品賞を是非劇場で!!





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  1. 2017/04/17(月) 20:12:09|
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