『あゝ、荒野 前編』

~あらすじ~
2021年。少年院に入っていたことのある沢村新次(菅田将暉)は、昔の仲間でボクサーの山本裕二(山田裕貴)を恨んでいた。一方、吃音(きつおん)と赤面症に悩む二木建二(ヤン・イクチュン)は、あるとき新次と共に片目こと堀口(ユースケ・サンタマリア)からボクシングジムに誘われる。彼らは、それぞれの思いを胸にトレーニングに励み……。
(シネマトゥデイ引用)
☆☆☆☆☆☆☆☆(80/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)
歌人、劇作家、作詞家、映画監督とマルチな顔を持ち、『田園に死す』などで知られる寺山修司さんが1966年に刊行した生涯唯一の長編小説『あゝ、荒野』。
2011年に蜷川幸雄さんの演出、松本潤と小出恵介出演より舞台化はされていますが、映像化は今作が初めてになります。
U-NEXT製作の二部作、監督を務めるのは『二重生活』で鮮烈な映画監督デビューとなった岸善幸。
テレビ業界出身であり、同じくそこから世界に羽ばたいた是枝監督の同期です。
『二重生活』を観て、スクリーンから伝わる独特の熱量と湿度に、今後注目すべき監督の一人であると確信しています。
W主演は、映画にテレビにCMにと大忙し名実共に若手NO1俳優の菅田将暉と、傑作韓国映画『息もできない』のヤン・イクチェン。
間違いのない二人に加え、大抜擢に身体を張って応えた木下あかりや、山田裕貴、ユースケサンタマリア、モロ師岡、木村多江などが共演。
味のある役者陣と、人を活かす岸監督の演出により、熱のこもった素晴らしいノワール映画になっております。
時代は、小説が刊行された1966年ではなく、2021年という近未来。
つまりは、オリンピックという一大行事が終わり、東日本大震災で親を亡くした世代が大人になる...
今の我々にとって最も疲れ果てた社会が容易に想像できる、そんな大正解な時代のアップデート。
そんな時代において、菅田将暉演じる「新次」とヤン・イクチェン演じる「建二」も疲れ苦しんでいます。
ある事件で刑務所に入るまでは詐欺や暴力が唯一の生きる術であった、野生的な「新二」。
重度の吃音&対人恐怖症を持ち、父親の暴力や偏見の目から耐える事が唯一の生きる術であった、奥手な「建二」。
そんなふたりの唯一の生きる術、それすらも奪われかけた絶望的な状況で、それぞれと、そしてボクシングと出会います。
ブロマンス要素を含み、プロテストや因縁の相手と対峙していくボクシング映画、そんな王道なシナリオの中で、一人一人の地を這って生きる様の描き方がこれでもかと丁寧に描かれます。
バックグラウンドの説明には余白を残しながら、瞬間瞬間を丁寧に描く事で、一人一人のどうしようもなさ、社会の中の疲れ、そしてもがく様子が、ビシバシと伝わってきます。
対象は新二と建二だけではありません。
トレーナーの通称片目や、新二の彼女、建二の父、自殺防止サークルのメンバー、会長の秘書までもが、空白と映される瞬間の濃度により、あらゆる人の熱量が伝わってきます。
最低なやつにも最低なやつなりの苦悩が、どうしても目につき、物語全体の中で考慮せざるえない...
この辺り、過去作とも共通した岸監督の手腕で、確かな監督だな~と感じました。
また、一人一人に寄り添った視点で、それらが切り替えながら描かれる為、人物の心情変化が雑になったり、置いて行かれたり、はたまた一人一人の魅力が分散したりしがちなのですが、
今作はシーン毎の濃度が非常に濃く、彼らは地つなぎに苦悩している為、どうでも良くなる事は決してなく、全員に対して前のめりで見てしまいました。
一方で、人物描写に長けたノワール映画だからと言って決して一辺倒な作品ではありません。
名作和製ノワールが共通して持つ適度な多幸感が。
「新二」と「建二」の一方通行気味なのに互いの虚無感を埋めるコミュニケーションから感じる多幸感が最高です!
ボクサーとしてはひとまずハッピーエンドとなったラスト。
しかしどう見ても全然解放されていない...それどころか歪みのピークでしょ....
という締め方も大好物。
エピソード的には浮いていた自殺防止サークルの下りは消化不良気味。
しかし、それすらも後編どのように絡んでくるか楽しみです!!
今から後編が待ち遠しい....
最高級な邦画ノワール、是非劇場で見てください!
オススメです!!!
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