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劇場公開映画を中心にレビュー 映画の良さと個人的感想を。

85『シェイプ・オブ・ウォーター』今の時代だからこそ

アカデミー賞、作品賞、監督賞受賞!
おめでとうございます!!

ギレルモ・デル・トロ監督、最新作!
『シェイプ・オブ・ウォーター』



~あらすじ~
1962年、米ソ冷戦時代のアメリカで、政府の極秘研究所の清掃員として働く孤独なイライザ(サリー・ホーキンス)は、同僚のゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)と共に秘密の実験を目撃する。アマゾンで崇められていたという、人間ではない“彼”の特異な姿に心惹(ひ)かれた彼女は、こっそり“彼”に会いにいくようになる。ところが“彼”は、もうすぐ実験の犠牲になることが決まっており……。
(シネマトゥデイ引用)







☆☆☆☆☆☆☆☆(85/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)
ついにやってくれた!
アルフォンゾ・キュアロン、アレクサンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥに続く、メキシコ三銃士の一人であるギレルモ・デル・トロ。
それぞれ『ゼロ・グラヴィティ』、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』でオスカーを受賞、デル・トロ監督だけ残される形となってました。

そんなデル・トロ監督と言えば、日本カルチャーからも大きな影響を受けた事でも有名で、度々クリーチャーが登場するなど、アウトサイダーの世界を描き続けてきました。
中でも、厳しい現実の中にファンタジーを見出す少女の世界を描いた傑作『ハンズ・ラビリンス』や、日本人が求めながら日本人には出来ずにいた実写ロボット映画を殆ど申し分ないレベルで作り上げてくれた『パシフィック・リム』は、宝物のような映画です。
子供心を大人の世界で表現する唯一無二の監督であり、そんな監督が描く怪獣恋愛映画がオスカーを射止めるなんて...
本当に歴史的なアカデミー賞でした。



作品に戻ると、今作は怪獣と女性の恋愛映画です。
『美女と野獣』がぱっと思い付きますが、デル・トロ監督はこのクラシック映画の全体は気に入りつつも、美男美女の不自由ない二人に落ち着く結末に納得がいかないと明言しています。
そんな監督が描く『美女と野獣』なんだから、当然生易しいものではありません。

サリー・ホーキンスが演じる主人公のイライザは、いわゆるな美女では決してありません。
そして彼女は、全く声を出す事が出来ないのです。
この映画で衝撃的なのが、この女性の日常の一部として、オナニーシーンが幾度か描かれる事です。
美化する事など決してしない、エロチシズムの感じない日常の行為。
そんな避けがちでありながら、でも日常としては必ず存在する描写を避けていない事が、この映画の大事なポイントでもあります。

主人公のイライザもさる事ながら、この映画の主要人物は、社会的にマイノリティな人達です。
同僚のゼルダは当時またまだ差別が大きかった黒人、しかも女性。
イライザの親友である老人男性ジャイルズは同性愛者。
そんなイライザを後押しする面々はマイノリティで構成されながら、彼女と対峙して"彼"を解剖の為に殺そうとする軍人ストリッグランドが当時の典型的な「成功したアメリカ人像」であるのが非常に面白い所です。
ストリッグランドの行い自体は、彼の時代や価値観の中では正しい事なんです。
普遍的な正しさを見失わないことは非常に難しいのかもしれません...

そんな中で、イライザと「彼」の愛は止まりません。
「彼」の姿は、人間のような輪郭をしながらも決して人間にあらず。
可愛いとか美しいとか、見た目から思う事は決してないでしょう。
それはイライザの日常から感じる印象も同じ。
彼らは見た目や言葉ではなく、彼ら自身に惹かれているのです。
そして、彼らを後押しするマイノリティな人達も、最終的には型にはまった正義ではなく、普遍的な正義を見出します。
型にはまって他者との間に壁を作るこの時代だからこそ、型ではなく生々しい本質を捉える二人の愛こそ極上に美しく、必要なんだと感じました。


このように普遍的な愛の美しいを見せる為に、出来る限り型だけを排除したこの映画にあって、しっかりグロもエロも避けずに描いている為、「彼」の造形含めて生理的に受け付けない人は多くいると思います。
はっきり言って、恋愛映画でありながらデートには向いてません。

一方で、デル・トロ監督曰く「一つの音楽のような映画にしたい」とあって、ディテールにこだわった映像と音楽は一貫した世界感を作り出します。
生々しさを物語としては見せながらも、通して寓話的な「美しさ」が印象に残る全体デザインの素晴らしさは、デル・トロ監督だからこそ。
「極上の映画のルック」をずっとしてくれてるんですよね。

また、この映画はある人物の語り部で始まり、そして終わるというのが非常に面白いんです。
具体的にはネタバレになるので書きませんが...
この映画は誰の視点なのか?
そう考えると、美しすぎるラストの映像は見え方がまた変化して、より寓話性が増しますよね。


デル・トロ監督だからこその、普遍的でありながらも今の時代の映画。
是非、今!劇場で観てください!!
超おススメです!!!

デル・トロ監督おめでとう!!!




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テーマ:映画感想 - ジャンル:映画

  1. 2018/03/06(火) 19:01:22|
  2. 2018年公開映画
  3. | トラックバック:10
  4. | コメント:2

コメント

初めまして。トラバありがとうございます。

マイノリティを描きながら、それぞれの人物が大切であり、得難い愛の世界観の下にあると思いました。ストリックランドが物質主義の成功者であり、「生きもの」は精神主義の神、イライザは物質と精神のどちらを取るか、を決める勝利の女神でしょう。拮抗した三角関係に観えました。

それから、トラバいただいた方は、ミラーサイトです。こちらのリンク先が本拠なので、よろしくのほどを。
  1. 2018/03/07(水) 14:20:33 |
  2. URL |
  3. 隆 #vGaKzaDM
  4. [ 編集 ]

Re: 85『シェイプ・オブ・ウォーター』今の時代だからこそ

コメントありがとうございます!

三角関係...なるほど、深い考察ですね。
映画だからこそ表現可能な本当に豊かな愛の映画ですよね。

本拠の方にも失礼します!
  1. 2018/03/10(土) 08:53:15 |
  2. URL |
  3. 西木寸 #-
  4. [ 編集 ]

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『シェイプ・オブ・ウォーター』 2018年1月29日 TOHOシネマズ新宿

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