シネマ・ジャンプストリート

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☆8『騙し絵の牙』組織の居心地の悪さと掻き乱す痛快さ

組織内対立の居心地の悪さと掻き乱す痛快さ

『騙し絵の牙』



~あらすじ~
大手出版社の薫風社で創業一族の社長が急死し、次期社長の座を巡って権力争いが勃発する。専務の東松(佐藤浩市)が断行する改革で雑誌が次々と廃刊の危機に陥り、変わり者の速水(大泉洋)が編集長を務めるお荷物雑誌「トリニティ」も例外ではなかった。くせ者ぞろいの上層部、作家、同僚たちの思惑が交錯する中、速水は新人編集者の高野(松岡茉優)を巻き込んで雑誌を存続させるための策を仕掛ける。
(シネマトゥデイ引用)


7/10★★★★★☆☆

以下 レビュー(核心のネタバレなし)
先日映画化もされた「罪の声」などの塩田武士の同名小説を原作に、『霧島、部活やめるってよ』の吉田大八監督がメガホンを撮ります。また原作において大泉洋に当て書きされた編集長を、映画化にあたっても実際に大泉洋が熱演。実質主人公となる新人編集者を、松岡茉優が演じるほか、佐藤浩一や國村隼、池田エレイザ、木村文乃らが脇を固めます。

本作は予告やポスターから印象を受ける、「どんでん返し」が軸にある映画ではありません。
出版社内での保守派と改革派の対立構図に、どの業界にも通ずる居心地の悪さがあり、その中で出版業界ならではの問題点と論点が存在する、その構図がめちゃくちゃ面白い。保守派の良く言えば文化保護的で悪く言えば文化を殺しかねない固定概念的な思想。改革派の良く言えば時代迎合的で悪く言えば文化を衰退させ得る資本迎合的な思想。それぞれの利点と欠点が見え隠れするバランスと、その中で組織論の外にいる新人編集者の高野(松岡茉優)が狂言回しとなる事で社内抗争のバカバカしさまで感じ取れる画面作りが最高でした。

そんな批評的な背景の中でかき乱す、大泉洋の大泉洋たる機能の仕方がまた絶妙。彼の掴みどころのない駆け引きが、場を掻き乱したり、はたまた掌を見せず予想外な一手を繰り出したり...この映画をエンターテイメントに昇華させます。
社会批評性とエンタメ性が高次元でミクスチャされる、吉田大八監督恐るべしだなと。

また、ある登場人物が編集長速水の「利用すれば良い」という言葉を、自らの方法で実践してしまうラストはよかったです。方法論だけでなく、出す答えも素晴らしく、未来を創るベクトルは一つじゃないだなって。

更に今回改めて、吉田大八監督のキャラクターの描き方が本当好きだなと感じました。エンタメ映画なのに、明らかな悪役がいない。あくまで考え方の違い、時代への適合性など、組織にとっての正しくなさなだけで、人間としては否定しない人物の写し方が素敵なんです。

池田エレイザも最高でしたね...

社会批評性がありつつ、エンターテイメントとしてど真ん中に面白い映画、おすすめです!!


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