シネマ・ジャンプストリート

劇場公開映画を中心にレビュー 映画の良さと個人的感想を。

☆9『オールド』全方位的に絶賛です。

一級品のタイムリミットスリラー

『オールド』



~あらすじ~
バカンスを過ごすため美しいビーチを訪れ、それぞれに楽しいひと時を過ごすキャパ一家。そのうち息子のトレントの姿が見えなくなり、捜してみると彼は6歳の子供から青年(アレックス・ウルフ)へと成長した姿で現れ、11歳の娘マドックスも大人の女性(トーマシン・マッケンジー)に変貌していた。不可解な事態に困惑する一家は、それぞれが急速に年老いていることに気付く。しかしビーチから逃げようとすると意識を失なってしまい、彼らは謎めいた空間から脱出できなくなる。




9/10★★★★★☆☆☆☆

以下 レビュー(核心のネタバレなし)
『シックス・センス』『スプリット』などのM・ナイト・シャマラン監督によるサバイバルスリラー。
世の中を斜に構えた世界観とそれを活かした捻りの効いたストーリー、強烈なキャラクター、独特の演出スタイルと、個性的な作風が特徴の監督。どうしても「どんでん返し」のイメージが先行しがちですが、あくまでこの監督がよく使う手段でして、あくまで捻れた世界観の面白さと、その中だからこその人間模様やドラマが特徴の監督だと思います。
そんなシャマラン監督が、グラフィックノベルの原作を元に、自ら映画用に脚本を書いたのが、本作になります。ポスタービジュアルから、傑作の予感がプンプンしていました。

忘れられない映画体験

まず本作で強調しいのが、宣伝で推されるような「サスペンス」や「謎解き」、もっと言えばシャマラン映画で安直に想像しそうな「どんでん返し」みたいな所が、面白い映画ではありません。あくまで本作ではその要素はおまけや蛇足に過ぎず、その過程で展開される内容にこそ面白さが凝縮された映画な為、期待するものによっては拍子抜けするかもしれません。

バカンスに来た家族とその他一向が、脱出できないプライベートビーチという閉鎖空間の中で、急速に年老いていくタイムリミットスリラーが展開される...

この映画最大の特徴は、そんな限定空間×タイムリミットの中に、社会の縮図を圧縮する事によって引き起こす、混沌と混乱、カオスな状況が五月雨式に襲いかかる所にあります。
具体的な内容は是非劇場で体験して頂きたいのでさご、時間が進んでいくに連れて生じる焦り、あらわになっている本性、加齢とともに見え始める肉体的な変化...それらが連鎖反応を起こす事によって、「あっ!?」「まじか...」「最悪...なんだけど最高...」って展開が文字通り絶え間なく次から次へと襲いかかってくる、そんな目を離せない映画になっています。

その混沌とした状況を表現するのに、あらゆる要素が有機的に機能していて、特に印象的なのが独特のカメラワークです。普通の映画じゃとり得ないような、飛び飛びのカメラワークをしていて、それが全体の空間認識を難しくしていて混沌を言い当てていたり、見せそうで見せないで「嫌な予感」を引っ張る撮り方もめちゃくちゃハマってると感じました。

さらに、複数の人物が登場する中で、人物造形の描き方、置き方もめちゃくちゃハマっています。パニックを連鎖的に引き起こす為に人物造形が凄い有機的に機能している為、取ってつけた展開ではなく、しっかり必然的に結末に向かって行ったように思わせてくれるようになってます。更にそんな人物造形が、この映画の全貌の真相に繋がってたりする隙のなさで。失礼ながら本当にシャマランの映画?とすら思ってしまいました。

この映画の作りとして、「有限の時間」や「限定的な空間」の中に、「社会の構図を詰め込んだ限定的な人々」が閉じ込めらて、「時間を圧縮して人々が変化して行く」という構成が、映画そのものの特性を言い当てています。つまり、「普段映画を見ている立場の人達が、映画の中に閉じ込められて、映画のルールで物語が進んでいく」という、メタ的な感覚を感じる映画になっているんですよね。映画の時間のマジックの特性を拡大利用してタイムスリラーとして機能させたシャマランマジックが、唯一無二の映画体験を味あわせてくれました。

めちゃくちゃオススメです!!


  1. 2021/09/07(火) 15:24:49|
  2. 2021年公開映画
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