
~あらすじ~
諜報(ちょうほう)員の仕事から離れて、リタイア後の生活の場をジャマイカに移した007ことジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)は、平穏な毎日を過ごしていた。ある日、旧友のCIAエージェント、フェリックス・ライターが訪ねてくる。彼から誘拐された科学者の救出を頼まれたボンドは、そのミッションを引き受ける。(シネマトゥデイ引用)
7/10★★★★★☆☆
以下 レビュー(ネタバレなしです!!)
【作品背景】
約6年ぶりに帰ってきた「007」!!
英国秘密情報部のエージェント ジェームズ・ボンドを描くシリーズで、1962年の『007/ドクター・ノオ』から始まり、実に本作で25作目になります。
そんな25作の中で、6代目ジェームズ・ボンドを務めるのがダニエル・クレイグ。
彼がボンドを演じるのは、2006年『カジノ・ロワイヤル』、2008年『慰めの報酬』、2012年『スカイフォール』、2015年『スペクター』に次いで5作目であり、その前とは全くストーリーが繋がらない為、実質この5作品でダニエル・クレイグ版007は閉じていると言って良いと思います。
本作が、そんなダニエル・クレイグ版シリーズの最後の作品になっています。
2006年の抜擢当初は、「金髪」「筋肉質で背の低い体型」や「青い目」など、外見的な面でこれまでのボンド像とかけ離れていた為、かなり非難されていたのですが、今ではすっかり定着、そのシリーズが終わりを迎えるのは、かなり感慨深いです...
監督を務めるのが、『ジェーン・エア』やnetflixドラマ『マニアック』などの日系アメリカ人のキャリー・ジョージ・フクナガ。
大抜擢って言って良いですよね。
ただ、この映画制作過程で紆余曲折あって、当初は『トレインスポッティング』や『スラムドッグ&ミリオネア』のダニー・ボイルが監督予定でしたが、制作側と意見が降板し、キャリー・ジョージ・フクナガ監督が登板する事に。
また、それ以外にも呪われていて、撮影中にダニエル・クレイグが大怪我をしたり、スタジオで爆発事故が起こったり、挙げ句の果てにはコロナで公開が延期になったり...
観れるだけ感謝ですね!
また、新たな敵役に『ボヘミアン・ラプソディ』のレミ・マレックや、前作に引き続きレア・セドゥ、新たなボンドガール候補にアナ・デ・アルマス、加えてお馴染みのQベン・ウィショー、Mレイフ・ファインズ、更に新たなエージェントとしてラッシャー・リンチらが出演。
ビリー・アイリッシュが主題歌を担当する事でも話題になっています。
【レビュー、感想(ネタバレなし!)】
めちゃくちゃ、賛否が割れていますね。
個人的には割れる気持ちは分かりつつも...「良く出来た作品でも無ければ、貶す作品でもなくない?」という感情です。
まず、ダニエル・クレイグ版007を振り返りつつ、本作の感想レビューに入っていきたいと思います。
このシリーズの最大の特徴って何だろうって考えた時に、現代をベースにリセットした時代設定で、そこにマッチしたジェームズ・ボンドを再定義した所にあると思っています。
これまでジェームズ・ボンドは、男性の憧れであり、シンボル的な存在として描かれ、荒唐無稽な敵のキャラクター、アクション、ガジェットや、セクシーシンボルとして利用されるボンドガール女性の扱いが中心にありました。
ダニエル版としては、それらは今の時代で描くにはノイズが多くなってしまう事も踏まえて、シリアスでリアルで身を削りながら戦うアクション、共闘する存在としてのボンドガールの描き方など、007のコンテンツのキャッチーさを随所に残しながらも現代の価値観にアップデートさせてきました。
一作目の『カジノ・ロワイヤル』は、そんな新しい造形と、カジノという舞台の活かし方、哀愁漂うクライマックスの切れ味含め、大傑作で完全に批判を払拭した訳ですが。
そんな中で『ダークナイト』の影響をもろに受け、破壊的想像という観点で行くともまで行き着く哀愁に「ファンタジー的な映像美」が足し合わされた3作目『スカイフォール』は大絶賛の嵐で、このダニエル・クレイグ版が伝説のシリーズになっていった訳です。
そして前作の『スペクター』、ダニエル・クレイグ版で全てに共通して描かれた大ボス的な存在との決着が描かれ、スパイ映画の物語としては一通り結末を迎えます。
そんな中での5作目本作『ノー・タイム・トゥ・ダイ』
前作で完結していた筈、何故必要だったのか??
このダニエル・クレイグ版007の特徴の一つに、長年続くシリーズで初めて、作品を跨いでボンドという1人の人生を捉えた構成になっています。
そんなシリーズだからこそ、敵対構造ではなくて、ボンドという人間の生き様を描ききる為に撮られたのが本作で、それが如実に前に出た作りになっています。
賛否両論の中に、物語と閉じ方に批判が集まっている部分もあるのですが、個人的には全然そこは批判ポイントにないです。
ダニエル・クレイグ版ボンドの「愛と哀愁」といアイデンティティにこの展開はめちゃくちゃハマっていて、シリーズ最高にエモくて号泣しちゃいました。
ただし...だからこその批判ポイントがあります。
そんな「ボンドの物語」を描こうとした結果、一つのスパイ映画としてはめちゃくちゃ歪でモヤる所が多々出てしまってるのです。
一番大きいのは、メインの敵キャラでレミ・マレック演じるサフィンの造形にあります。
たしかに彼のお面や、日本の宗教的な本拠地の描かれ方、佇まいの雰囲気なんかはめちゃくちゃ怖いし、何より彼の「武器」の残酷さは、エモさの最大の要因になったりしています。
ただ、ボンドや、レア・セドゥ演じるマドレーヌへの執着は、バックボーン含めかなり伝わってくるのですが、彼のテロ行為への目的がめちゃくちゃ遠くの方にしか見えないんですよね。
彼の不気味さを強調する為って意見があったりもするのですが、ストーリー自体がそのテロ行為をベースの進む為、特にラストの攻防では「結局こいつは何したいの?」ってボンドが辿る展開を演出する為に都合良く動いてるように見えちゃってるんです。
他にも、真エージェントの活かし方(ていうか活かせなさ)や、英国諜報部との関係性も、ボンドのストーリーを演出する為に動いてて、肝心のスパイ映画のストーリーが、めちゃくちゃボヤけてしまっていたのが残念です。
なんですが...じゃあ面白くなかったかと言われると、163分飽きない程度には面白かったんですよね。
案の定ボンドの物語には泣いちゃってるし、アクション映画として見所の多さや作り方の旨さは特出すべきだと思います。
冒頭の、クラクラさせられる長回しアクションも最高ですし、過去作のオマージュ含めて時折クスって笑わされる所も流石です。
また、本作に登場する女性2人の存在感。
レア・セドゥ演じるマドレーヌの、ボンドとの関係性や、彼女のうちに秘めたる強さが垣間見えて最高でした。
そしてアナ・デ・アルマス。彼女のアクションや佇まいが魅力的過ぎる。ただ、彼女のポジションが彼女である必要、存在意義が不透明で、サービスとしての存在になってるのは残念ですね。
後は新たなエージェントのラッシャー・リンチは、彼女があの立ち位置を与えられたのであれば、相応にもっと活きて欲しかった...
そんな感じで、この映画が完全に賛否両論極端に分かれるというのもよく分からないし、モヤモヤする所はあるけど、十二分に楽しめる映画なのではと思っています。
間違いなくシリーズ映画としてマスターピースであるダニエル・クレイグ版007の最後の映画、映画館で観る価値は充分あると思いますので、迷ってる方は是非!

