常軌を逸した人間のサクセスストーリー。
『ナイトクローラー』

~あらすじ~
煌びやかなLAの街で仕事にあぶれた男ルイス・ブルーム(ジェイク・ギレンホール)。窃盗で生計を立てながら、機を見ては自分を売り込み、仕事を得ようとするも上手くいかない。
ある日、偶然居合わせた事故現場で、テレビ局に過激な映像を売る「ナイトクローラー」と呼ばれる映像パパラッチを目撃。盗品と交換にビデオカメラと無線傍受機を手に入れると、警察無線コードを徹底的に分析し、事件や事故の現場に猛スピードで駆け付ける。彼の過激な映像は女性ディレクターのニーナ(レネ・ルッソ)の目に止まり高く売れ始めるが、彼女の要求はさらにエスカレートしていく。そして、遂に彼は....
☆☆☆☆☆☆☆☆(80/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)
~今最も惹きつける顔力~
昨年度のショーレースで度々顔を出しながら、アカデミー賞では脚本賞のノミネートのみに終わった今作の監督・脚本を務めるのは、脚本家出身のダン・ギルロイ。
これが初監督作。
そして今作の注目はなんといっても、主演のジェイク・ギレンホール!
今、いちばん好きな俳優かもしれない。
子役時代に大傑作「遠い空の向こうに」に主演すると、
20代に入ってからは、今は亡きヒース・レジャーと狂演した「ブロークバック・マウンテン」、ストイックな撮影で有名なフィンチャーの監督作「ゾディアック」と、爽やかながらも奥に何かを抱える人物を演じ、着々とキャリアを築く。
そして、迎えた2010年代以降の作品選びは、更に興味深すぎる。
惹きこみ力が桁外れのシチュエーションアクション映画「ミッション:8ミニッツ」、POV形式の新たな代表作となったクライムムービー「エンド・オブ・ウォッチ」、胸がもがれる不条理巧妙サスペンス「プリズナーズ」、超難解劇薬心理ミステリー「複製された男」と、一癖も二癖もある傑作に出演、魅了し続けてくれる。
彼本来の風貌自体は爽やかなんだが、目の奥のみに宿る強情な意思。
表情だけで感情を語り、周囲の視線を釘付けにする顔力。
そんな彼が12キロ減量して演じた、狂気に満ちたパパラッチ。与えてくれた嫌悪感は、最高に魅力的だった!!
また画面に釘付けにするのは、決してギレンホールの演技だけでない。
狂気に満ちたパパラッチが躍動するLAの夜景が美しい事....
鮮やかな風景と人物の持つ狂気のアンバランスさが実に心地よい。
~悪意のない狂気~
冒頭、ルイス・ブルームは何やら私有地に忍び込もうとしている所、警備員に見つかってしまう。
当然注意されるが、「わたしは真面目な人間で...」と取り繕う。そして隙を見て時計を奪い去る!?
決して堅気な人間ではない事が、この描写だけで伝わるが、彼には彼の事情があるようにも見える。
学歴もコネもない彼は、つきたくともまともな仕事につけない。そんな状況が彼をこうさせるのかもしれない....
しかし...盗んだ品物を売りにいった際に、店主に向かって彼は臆面もなく言う。
「私に仕事を紹介してほしい。私は粘り強い真面目な人間で、人一倍吸収力がある。」
悪い事をしているその場で、自分を売り込む。
彼はこれらの台詞を本心で言っている。
彼には彼の事情?そんなもの、はなからない。
サイコパス的な人間性の欠如が少しずつ見え隠れし始めたこの辺りから、突き進む先への不安感を煽られ、俄然面白く。
この先いったい彼は何を起こしていくのか....
そして偶然、報道パパラッチ「ナイトクローラー」を見かける事で、彼の欠如部分を吐き出す道筋ができはじめる。
片時も目が離せない、いや離したくない!!
この映画は、「セッション」や「バードマン」がそうであったような、
焦りや危機的状況から人間性が崩壊し、狂気に蝕まれていくストーリーでは決してない。
サイコパスな人間が、死に物狂いで結果を出そうとするサイコパス映画だった。
~何を撮っているのか~
彼の被写体を無視した過激な映像は、視聴率の低迷に悩む女性ディレクター ニーナの目に止まる。
しかし、彼の前に大手パパラッチ集団の壁が...
数の利を活かした彼らの前に、先手を踏まれてばかり。
ついに、仕事に真面目な彼は被写体だけではなく、現実すらも無視をする。
具体的に彼が何をするかは是非劇場で観て欲しいが、
過激な伝え手であった彼が、伝え手すら超えていく様子は圧巻。
そしてそれは断面しか映し出さないメディアの現実にも、大なり小なり当てはまるのでは...世の中おぞましすぎる。
不思議な事に、彼の放つ仕事論や自分を保つ精神論のセリフはどれも正論に聞こえる。
自分に望まれている物を理解し、徹底的に研究し、望まれている結果を出す。その為にやり切る。
更に自分の成果をカードに使い、交渉し、立場を有利にする。
ただの仕事が出来る奴じゃないか!!!
仕事への正論も、正しい倫理観あっての物だと逆説的に見えてくる。
~取り巻く人間~
周りの人間によって、彼の欠如部分を吐き出す道筋ができたのと同様、
彼の行動もまた、周りの人々に伝染する。
元々、数字を勝ち取る事に異常な執着があったニーナ。彼女のタガが外れていく。
加えて、この映画の唯一の良心であった、ダメ人間のリック。ルイス・ブルームにインターンとして雇われる、相棒候補。
仕事を転々としていた彼だが、ルイス・ブルームの「正しい仕事論」で操られる。
そしてまるでブラック企業で働く人ように、欠如が当然の物として伝染し始める。
その上、「ある物」も伝染してしまった結果....
~サクセスストーリー~
仕事という側面だけ切り取れば、この映画は何でもないサクセスストーリーに過ぎない。
ただしこの映画の行き着く先に、気持ち良さは存在せず、残るのは嫌悪感。
しかしこの嫌悪感が心地よい。
魅力的な描写、人物に惹かれていると、ラストがハッピーエンドに見えるからかも知れない。
それに...
ラストのエンディング曲のキレが最高すぎ!!!
一方、「お前は俺の未来だ」という、ある人物のセリフが思い浮かべて、彼の行く末を想像する事も出来る余地もある。
狂った魅力的な人間が、常軌を逸した行動にでるのだから、目が離せないのは間違いない。
人間性の欠如が行き着く結末!是非劇場で見てください!超オススメ。
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