あの時代への映画賛歌コメディ
『ヘイル、シーザー!』

~あらすじ~
1950年代のハリウッド。スタジオの命運を左右する超大作『ヘイル、シーザー!』の撮影中、世界的大スターの主演俳優ウィットロック(ジョージ・クルーニー)が何者かに誘拐されてしまう。事件解決を任されたスタジオの何でも屋(ジョシュ・ブローリン)は、魅力あふれる若手女優(スカーレット・ヨハンソン)や著名なミュージカルスター(チャニング・テイタム)ら個性豊かな俳優たちを巻き込み、ウィットロック奪還に向け奮闘する。
(シネマトゥデイ 引用)
☆☆☆☆☆☆☆(65/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)
「ファーゴ」や「ノーカントリー」のジョエル&イーサン・コーエン兄弟監督最新作!
監督作としては約三年ぶりで、脚本作としてはスピルバーグの昨年の映画「プリッジ・オブ・スパイ」などがあります。
言わずと知れた、アカデミー賞常連の世界的名監督なんですが、その作家性は非常に独特です。
大別しちゃうと、大きく分けて二通りあるんですが、笑っちゃうようなスリルサスペンスか、好きなように撮ったサスペンスコメディ。
どちらも共通しているのは、ウェットに富んだ会話と独特の湿度感。
今作は完全に後者の映画になります。
1950年代のハリウッドを描写した今作。
当時の映画産業は、大戦中のプロパカンダ映画で圧倒的な規模に成長した巨大スタジオが支配していました。
実際に存在したMGMというスタジオが、今作のモデルになります。
テレビの台頭や、大作主義による質の低下...それによって巨大スタジオが衰退していくのですが、その一歩手前
巨大帝国スタジオの最後の栄華時代。
それが、この映画の描かれる時代です。
スターの私生活の管理から、映画の根回しなど手広く対応を行う通称「フィクサー」のエディ(ジョシュ・ブローリン)。
これまた実際に存在した方をモデルにしているそうです。
名優ベアード(ジョージ・クルーニー)主役の超大作、「ヘイル・シーザー!」の製作中に、謎の男達に誘拐されてしまいます。
通常の映画であればこのサスペンス要素を中心に扱いそうなんですが、こん映画は誘拐を含め、関係なさそうに見える(もしくは関連した)映画製作に対する様々な問題に、エディが対応する、非常に散らかった話の進み方をします。
しかしこの散らかって見えるディテールこそが、この映画の最大の旨みな訳です。
その旨みとは...
当時の時代背景や思想、大スタジオ内で映画に関わるあらゆる人々、それらを皮肉った...言ってしまえば、当時のあるあるをバカにするコメディなのです。
西部劇ではスターだが演技は超大根の彼や、
やたらと恋愛体質の彼女、
ゲイ疑惑のある彼ら、
よくわからない信念を持っているジャーナリストなど、
当時を知らない自分ですら、「こんな人いたに違いない...」と思ってしまうような、様々な問題をもつキャラクターが、続々登場します。
また、思想が当時の映画の中に反映されていく様子も映されていきます。
特に共産主義の扱い。
作中には10人の謎の脚本家が登場しますが、彼らも実際にいた人物をモデルにしています。
当時のアメリカは国家主導で共産主義狩り(赤狩り)を行っていました。
もちろんハリウッドにおいても例外ではありません。
この10人の脚本家は、尋問されるも共産主義の思想を持つ仲間を売らなかった故に、干されてしまった人達です。
思想を語る事で時間を浪費してる彼らを、影響されるある人物を、そして彼らの持つ思想の矛盾を、これまた突き放して笑いに変えています。
もちろん、自由を掲げるアメリカによる思想の迫害といったこちら側の矛盾も、ジャーナリストを使ってちゃっかり皮肉っています。
こんな一見あざ笑っている映画なのですが、その空気には当時の映画産業への愛がこれでもかと溢れています。
最後の輝きを放っていた巨大帝国スタジオ全盛時代。
ステージや試写室など、当時のスタジオ内を徹底的に再現したロケーションには、ワクワクが止まりません。
またミュージカルや西部劇などの、撮影現場を切り取ることで、当時の映画にあったワクワク感を直接体感させてくれます。
素晴らしい映画も、くだらない映画も、楽しさも、矛盾も、いろいろあった当時の映画産業に乾杯!!
そんなコーエン兄弟の温かい想いが伝わります。
また、俳優の使い方なんかも抜群です。
ジョージ・クルーニーの間抜けそうな感じはもちろん、チャニング・テイタムやジョナ・ヒルの活かし方は最高過ぎやしませんか。
もう少し、スカーレット・ヨハンソンは見たかった...
当時の映画に疎い自分は、この映画の楽しさを味わい尽くせなかったのは残念ですが...
時代背景含め、映画の知識がある人ほど楽しめる事は間違いない類の映画です。
映画好きなら是非、劇場で見てください!
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