シネマ・ジャンプストリート

劇場公開映画を中心にレビュー 映画の良さと個人的感想を。

90『海よりもまだ深く』こんなはずじゃ...

なりたかった大人に、なれていますか?

上半期ベスト!!いや、今年ベスト!?
レビュー遅くなりましたが、必見です。

『海よりもまだ深く』



~あらすじ~
15年前に1度だけ文学賞を受賞したことのある良多(阿部寛)は、「小説のための取材」と理由を付けて探偵事務所で働いている。良多は離婚した元妻の響子(真木よう子)への思いを捨てきれず、響子に新しく恋人ができたことにぼうぜんとしていた。良多、響子、息子の真悟(吉澤太陽)は、良多の母・淑子(樹木希林)の家に偶然集まったある日、台風の一夜を皆で過ごすことになり……。
(シネマトゥデイ引用)




☆☆☆☆☆☆☆☆☆(90/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)

いま、世界で最も評価されている日本人映画監督といえば...
柳楽優弥を史上最年少でカンヌの主演男優賞に導いた『誰も知らない』や、同じカンヌで審査員賞を受賞せた『そして父になる』の是枝祐和監督でしょうよ!!!
決してドラマティックなストーリーテリングはせず、何気ない日常の中でこそ見えてくる何かを浮かび上がらせる天才...
今作では新たなアプローチをしながらも、「らしさ」も全面に押し出した、笑いと涙が交差する、傑作...是枝監督史上の最高傑作だと思います!!

阿部寛が演じるのは、過去のただ一つの栄光のせいで、プライドだけが高い元小説家の良多。
離婚中で元妻、そして息子と離れて暮らす彼は、取材という名目で興信所
で働いているのだが、彼のダメ男っぷりは映画史上屈指。
実家に帰り亡き父のお香典をくすねるは、お金が無くて手を差し伸べてくれた好意を断るは、高校生から恐喝まがいなことをして金を奪うは、子供の為に使う予定やったその金をギャンブルでするは...
クソみたいなダメ男。
しかし、こんなクソ男ですが、どうしても憎めません。
ドキュメンタリー出身の是枝監督らしい、繊細な人物描写所以でしょう。
池松壮亮演じる青年(ほんといい味出してる!)に慕われてる事からも、そして真木よう子演じる元奥さん響子や息子との会話からも、根っからの悪人でない事は伝わります。
人生、こんなはずじゃなかった...そんな感情に対する共感が、嫌悪感をはるかに凌駕し、それすら愛おしい人間性に感じさせてくれました。

家族を取り戻したがっているが、行動が決して伴わない...むしろ逆を歩いてしまうダメ男良太ですが、彼に願っても無い機会が物語の後半で訪れます。
台風の襲撃で、良太と息子、元妻の響子、そして母(樹木希林)が、実家の団地でつかぬまの一夜を共に過ごすことに。
ここでようやく...物語らしい物が動き始めます。
なんでもない日常描写が大半な為、この映画は何もおこっていない...そう感じる人もいるかもしれません。
しかし、何も起こらないように見える我々の日常こそ、何かの連続で成り立っている...
こんな当然の事が、是枝作品で毎度思い知らされます。

また、全編にわたってユーモア溢れた会話が多く、おそらく是枝作品史上で、会話量も笑いの量も最多なのではないでしょうか。
そしてその会話の中心にいるのは樹木希林が演じる母親。
名言金言のオンパレード。
彼女の一つ一つの冗談や行動、そして照れ半分の文句や見て見ぬふりから、母のうざくも温かい愛が伝わり、やられました。
いつまでたっても、母は母です。

また、この映画で圧倒的な存在感を放っているのが、画面には顔も名前も出てこない良太の亡き父です。
母や良太の言葉と、彼が残した遺品を通して、作品に死の雰囲気を与え続けています。
家族に迷惑をかけ続けた父。
小説家になる事を大反対した父。
彼のようには絶対になりたくないと思っていた良太ですが、現実はやはり親子。
こんなはずじゃなかった...
しかし、良太が現実と向き合った時に初めて知る事実に、目がもげました。


朝が訪れ、台風が去ると同時に、この家族の時間も終わりに。
この映画は決してわかりやすいハッピーエンドではありません。
事柄だけ切りとると、バッドエンドです。
団地という閉塞感のあるコミュニティーを最大限活かし、
登場する人物全員が持つ「こんなはずじゃなかった...」という想いは最後まで...いや、最後に行くほどガツンと強調されます。
(特に母のラストの視線は....ずるい!)
しかし、作品の残り香はポジティブで爽やかななものでした。
最後に映される良太の後ろ姿からは、今までなかった僅かな希望と成長が感じられます。
何かを諦めてようやく、見える幸せ。
エンディングで流れるハナレグミの「深呼吸」を含め、本当に素晴らしい余韻が最後には残りました。

子供の使い方含め、団地や公園の描写、真木よう子のエロさなど、まだまだ語り足りない傑作。
是非...絶対、映画館で今すぐに見てください!





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  1. 2016/06/13(月) 20:56:31|
  2. 2016年公開映画
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