シネマ・ジャンプストリート

劇場公開映画を中心にレビュー 映画の良さと個人的感想を。

85『この世界の片隅に』すずちゃん...

「なのに」が「だけど...」を想像させる。

完成度ぶっちぎり。
戦時中の広島の日常を切り取ったアニメーション映画。
『この世界の片隅に』



~あらすじ~
1944年広島。18歳のすずは、顔も見たことのない若者と結婚し、生まれ育った江波から20キロメートル離れた呉へとやって来る。それまで得意な絵を描いてばかりだった彼女は、一転して一家を支える主婦に。創意工夫を凝らしながら食糧難を乗り越え、毎日の食卓を作り出す。やがて戦争は激しくなり、日本海軍の要となっている呉はアメリカ軍によるすさまじい空襲にさらされ、数多くの軍艦が燃え上がり、町並みも破壊されていく。そんな状況でも懸命に生きていくすずだったが、ついに1945年8月を迎える。
(シネマトゥデイ引用)







☆☆☆☆☆☆☆☆(85/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)
いやー、とにっかく評判が良い!!
公開から2週間以上たった今でも評判は衰えず、filmarksで4.4の評価
(シン・ゴジラ4.1 マッドマックスFR4.1 アナ雪3.6)、映画.comや、yahoo映画でも4.5を超えてます。
今年ベストとの声は数知れず、アメリカ在住映画評論家の町山智浩さんが町山大賞!?を贈呈する程。
話題が話題を呼び興行的にも好調で、これの何が嬉しいって、商業映画じゃなくても面白ければ映画はしっかり売れると証明された事。
感化されて日本から意欲的な映画がどんとん出てくる流れになると、嬉しい訳です。

この映画は、こうの史代さんの同名漫画を原作とし、一般の方よりお金を募るクラウドファンディングという方法を活用しながら、制作にこぎつけました。
監督は、『マイマイ新子と千年の魔法』の 片渕須直。
主人公すずの声優を務めるのは、大ヒット朝ドラの『あまちゃん』以降は色々あって、作品に恵まれいなかった、能年玲奈...もとい「のん」です。

間違いなく、映画の大きな魅力の一つになっているのが、その「すずちゃん」。
広島市内近くに、三人兄弟の家族でひっそり暮らしていたところ
突然、見ず知らず?の男性に結婚を申し込まれ、あれ?誰だろ...?なんて思っていたのに、状況に流され、なんとなーく、いつの間にか、呉に嫁ぎに行く事になります。
「あれ~?弱ったな~?」なんて言いながら。
絵に描いたような世間知らずなんですが....これが本当可愛い!!!
またこの映画、驚くほどテンポか良く、年月が経過していくのですが、これがあれよあれよと事態に飲み込まれていくすずちゃんの主観と実は一致しているんです。
無垢でふわふわしているすずちゃんが見た戦時中の世界。
それがそのまま描かれているのがこの映画なんです。

また、テンポが良いだけでなく、情報量も本当に多い。
通常なら語られそうな所を行間に委ねてぽんぽん話が進むため、何度見ても楽しめるはずです。


すずちゃんが嫁いだ先で暮らし始めた呉は、戦艦武蔵を生産するなど兵器開発の軍事都市です。
テンポよく話が進む中、戦況が日に日に悪化し、爆撃が増えるのですが、それはあくまで背景の変化に過ぎません。
明らかに食糧難で苦しい状況のはずなんですが、菜の花を拾ってきて味噌汁に入れたりするすずちゃんは、この状況の生活を楽しんでいるように見えます。
こんな描写が大半を占めるので、戦争映画なのに、全く重々しさがありません。
しかし逆に、こんな過酷な状況の中に、変わりなく明るく楽しい普通の生活を作っている姿に、ほろりと涙が誘われます。

そんなすずちゃんの一番の楽しみは絵を描くこと
食べたいな~なんて言ってスイカの絵で描くのですが、軍艦大和や爆撃の様子も絵にしてしまいます。
すると途端に残酷なはずの爆撃シーンが、穏やかで色鮮やかに変化します
映画自体の作画も、彼女の絵のタッチと似ていて優しいのは、やはりこの映画が彼女視点だから。

しかし、戦況の悪化は止まらず...
ある決定的な出来事が彼女達を襲います。
ただ絵を描いていたかっただけのすずちゃん。
呉の家族に居場所を見つけ始めたすずちゃん。
「何も考えずに、ふわふわしていたかったよ...」
こんなセリフが、あの...あのすずちゃんが吐き出した時、涙が止まりませんでした。
唯一、この世界の片隅の居場所さえあれば、良かっただけなのに!!


自分の居場所を失ってしまったすずちゃん。
次第に、比較的爆撃の少なかった広島市に帰るという選択肢が出てきます。
8月6日は広島市内でお祭りがあるからって勧められて。
...
私たちは知っています。
この日の意味を。
この日に起こる何かを。
こんなになったすずちゃんを、まだ戦争は苦しめるのかよ...

こんなにも悲痛な道を辿る映画にも関わらず、日常を描いている今作は、決して戦争ダメなんて高らかに叫びません。
だって、この時代を生きてた人は、そんな事思えた訳ないし、ましてや口に出来た訳がない。
いつの間に近い人がいなくなってる事が日常になってたり、近くで人が死んでいても気付かなかったり、息子の出兵にバンザイと喜んでたり...
泣いてるシーンも、ほとんどは隠れて泣く所がさりげなく映り込むだけ。
楽しくあろうとする日常の中の、そんな異質なリアルが、戦争を語ります。

もちろん、ただのバッドエンドなんかでは終わりません。
どんな悲劇の最中や直後でも、この世界の片隅に希望を見つける事ができる。
そんな微かな希望が、爽やかな余韻として最後に残っていきます。

戦争映画なのに、テンポが良い。
戦況が悪化するのに、楽しい日常が保たれる。
そして、それなのに...
「なのに」が「だけど...」を想像させる素晴らしい映画。
非の打ち所がない、新たな戦争映画の名作。
今年、絶対見るべき映画の一つです。
万人にオススメです!!!




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  1. 2016/11/30(水) 21:31:06|
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